------------------------------------------------------------------------------------    
①金融工学とリスクマネジメント <吉藤茂>
市場リスクマネジメントの実務に使える理論を、銀行で実際に(実験的に)行われている手法を含め解説した本。 著者が「純粋」な学者ではなく、ディーリングやRM現場の当事者である点がいい。 
内容は 
(1)マーケットやリスク管理の基礎的な話 
(2)VaRを中心としたリスク管理手法の具体的解説 
(3)研究的内容 
の3つに大分できるが、バランスが良くコンパクトな一冊になっている。 
ただ、(1)に属する内容でひっかかる部分がある人は他に読むべき本が数多くあると思うので、本書は薦められない。 
一つのトピックを丁寧に掘り下げるというような類の本ではないので、手法の解説がさらっとしすぎていて(式や前提をはしょりすぎ)よくわからないというような部分がいくつもあったが、全体としてリスク管理を考える上でのヒントはいろいろあったなという感想。加えて、銀行、やっぱり結構がんばってるな、という感じ。
本書のメインからは少しはずれるが、最後の章で紹介されていた行動ファイナンスの部分が個人的には面白かった。 以下内容をいくつかピックアップすると、
 
1.価値関数とかウエイト関数とか 
・価値関数とは「望ましさの心理学的評価値」であり、次の3つのことを前提としている。 
-人は変化には敏感だが、絶対的な価値については比較的鈍感 
-儲かりそうなときはリスク回避的、損しそうなときはリスク愛好的 
-損失は儲けよりもずっと重大に思える 
・ウエイト関数とは「意思決定に関する望ましさの心理学的評価値」 
-非常に低い確率は過大評価され、中~高確率は過小評価される 
ex)どちらのクジを選ぶ? 
A:確率0.45で100万円当たり vs 確率0.9で50万円当たり 
→多くの人は後者を選ぶ(期待値は45万円で同じ) 
B:確率0.001で100万円当たり vs 確率0.002で50万円当たり 
→多くの人は前者を選ぶ(期待値は1,000円で同じ) 
これはすごい。たしかに。人はチャンスの低いクジに高値を付けすぎる傾向あり。 
身近な例をいろいろ想像するとかなり当てはまる。 
2.ランダム系列の誤認知 
・コイン投げで表が続くと、そとそと裏が出るはずだと考えがちなこと 
・偶然の産物にトレンドをみてしまう錯覚 
3.固着性(アンカリング)
 
・確率評価が特定の値に引きずられる傾向 
ex)質問の仕方によって評価値に大きな差 
「この壺はいくらだと思うか?」 
という質問だけの場合と、 
「この壺は10万円以上か?以下か?」と聞いてから 
「この壺はいくらだと思うか?」 
と質問するのとでは評価値に差が出る。 
壺の値段がいくらにせよ、後者の聞き方では最終的な回答の分布が10万円に引きずられる。 
このケースはよくある。かなり意識していないとやられる。 
冷静に分析されると非常に勉強になる。 
その他いくつも面白い性質や研究結果が載っていた。 
またふとしたときに読み返してみよう。
②コーポレート・ファイナンス入門 <砂川伸幸>
 
「入門」という名にふさわしい、レベルも分量もちょうど良い一冊。 
それでいて、満遍なくコーポレートファイナンスのトピックに触れている。リアルオプションについての話も多少だが入っているのも好感。
簡素な文庫本にしては驚異的な「わかりやすさ」だろう。アマゾンのレビュアーの評価が高いのにも納得。 
ファイナンスに関しては、ハードカバーで分厚い「基本書」をじっくり読んでいくのもいいのだろうけど、「入門書」をいくつか読んでみるというのは、それはそれで有益だと思う。著者によって同じ理論を説明するための角度が若干違っていて、新たな気づきがあることも。
 
Friday, July 24, 2009
お手軽ファイナンス本
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment