Sunday, June 06, 2010

世界を変えるデザイン

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『世界を変えるデザイン展』に行ってきた。
開催は、ミッドタウン及びAXISギャラリーにて。6/13まで。
Info : http://exhibition.bop-design.com/

正直に、まず、この展示を知った全ての人に足を運んで欲しい。行けない人も、最後に載せておいた本を買って読んでみて欲しい。
HPを見て事前にイメージを膨らませていたが、実際行ってみて衝撃を受けたし、見えるもの、考えることが少し変わった1日になった。デザインは確かに世界を変えるし、僕らの見えないところで、そうした活動をしている人たちがいる。素晴らしいデザインが地球上で非常に尊い価値を生み出している。

この展示の副題は、"imagine another life through the products"だったり、"Design for the other 90%"だったりする。
ミッドタウンやインテリア複合ビルのAXISでの開催とあっては、ハイソでカッコイイ"Design"を想像するかもしれないが、そうではない。以下の一文を読んで頂きたい。

"世界のデザイナーの95%は、世界の10%を占めるにすぎない、最も豊かな顧客向けの製品とサービスの開発に全力を注いでいる。残りの90%に届くには、まさにデザイン革命ともいうべきものが必要だ。"(『世界を変えるデザイン』P40)

世界には僕ら日本人の感覚では想像が付かないような環境で生きている人がいる。というか大多数がそうだ。食糧もなければきれいな水もない。世界人口の39%はトイレがない生活をしているし、全人口の3分の1は、木以外のエネルギー源をほとんど持っていない。本展示では、最初にそのような事実を皮肉なほどに分かりやすいバブルチャートで見せ付けられる。日本を基準として、どれだけの人がどのような生活実態なのか、様々な切り口で比較がなされる。
最初に現実をinputした上で、ではそれをどう改善していくのか、デザインに何ができるのか、その活動を約80点のプロダクトデザイン、プロジェクト事例を通じて伝えるのが本展示の目的だ。

今まで自分の視野がやはり10%のデザインの方に向いていたのが恥ずかしくなるぐらい、どれも素晴らしいデザインだった。ただ何かを与えるのではなく、人々に機会を与える、"empower"する。そしてBOP(the Base of the Pyramid)、つまり市場を定義し、ビジネスとして問題解決をする。頓挫した多くのideaとプロジェクトの上に、本展示約80点の成功事例があるのだが、デザインの持つ可能性と、これから本当に何が必要なのか再認識することとなった。

以下にいくつか事例を載せる。

これは、個人携帯用浄水器。水は命の源だが、同時に死へのトリガーとなることも多い。水が媒介する病気が多いからだ。水が飲みたい、ただ目の前にある水によって死がもたらされるかもしれない、そんなジレンマから人々を救うことができるプロダクト。水に関するものは他にも数多く紹介されていたが、安全な水がいつでも飲める日本のこの状況が如何に幸せであるかあらためて思い知った。


こちらは、使用済注射針を安全に処理するプロダクト。1つ$1強のコストだが、シンプルで良く考えられている。これだけシンプルなものでどれだけの不憫な感染が避けられるのかと思うと、凄いなと思う。


本展では、途上国における課題を以下の8つに分類し、イメージしやすいアイコンが設定されている。
[water],[food],[energy],[health],[housing],[mobility],[education],[connectivity]
こういうアイコンの感覚的なわかりやすさにもデザインの力を感じた。加えて、僕が凄いと感じたのはそれぞれのプロダクトの説明に、絵が使われていることだ。シンプルなイラストで、そのプロダクトの目的が何で、どういう使い方でどんな問題が解決できるか、子供でも分かる。そもそもプロダクトが使用されるエリアが識字率の極端に低いところばかりなので、そうした誰にでも理解できる説明書が必要なのだが、あまりの分かりやすさに驚いた。IKEAの商品説明書も文字なしで有名だが、イラストやデザインはコミュニケーションツールとしても大きな価値を出すことができるものだと痛感。




これは、最も唸らされたプロダクトの1つ、"Q Drum"についての映像。
またもや水関連だが、"運ぶ"ためのもの。水を得るのが困難な地域では、人々は何キロもの道のりを歩いて水を調達する。頭の上に"かめ"を乗せて毎日のように運ぶわけだが、首を痛めることも多いし、そもそも大変な労力と時間がかかる。このシンプルなプラスチック製の転がる容器を使うことで、水調達に伴う危険を軽減し、コストを下げる。子供でも50リットルの水を軽々運べるそうだ。

このプロダクトの説明を読んでいて、コストに関する考え方における気づきがあった。このプロダクト自体の価格は結構高い。確か数十ドル。但し、ユーザーの労務・時間コストを短縮することができる。僕はこれまで、途上国の人にはある程度の余剰時間資源があると思っていた。仕事などの機会がないために、うまくその余剰資源が使えない、そこにボトルネックがあると思っていた。しかし、実際には、彼らにそれほどの余剰時間資源などない。寧ろ、時間資源があれば、"遊び"によって幸福度を高めることもできるし、勉強することで現状を打開できる可能性も高いのだ。シンプルなデザインによって、時間を創出すること。その重要性と効果の高さを知った。先進国同様、時間創出は人間にとって最も基本的な、ものごとをプラスに進めるドライバーなのだ。


他に、印象に残ったことをメモしておくとすれば、途上国向けデザインのためのフレームワークだろうか。

<考慮すべき4つのP>
・People : 社会的側面
・Planet : 環境的側面
・Profit : ビジネス的側面
・Product : プロダクトとしての側面

<プロダクトの開発にとって重要な4つのA>
・Availability : 供給・販売の方法について
・Affordability : 価格の安さの追求
・Awareness : プロダクトの周知・普及方法について
・Acceptability : 現地の文化・社会への理解

確かに、利益追求体である企業がビジネスとしてBOPマーケットに切り込み、本展のようなプロダクトを提供することは簡単ではない。しかし、本展を通じて、"やりよう"によってはそれが可能であること、そして10%側の人間が、獲得した知見、能力を90%の人間に還元しなければならないこと、それはデザインという切り口で取り組むと有効で面白くもある、ということを学んだ。

"デザインは、人間の本当の要求にこたえるような道具でなければならない。"(展示物より)


会場で以下の本も買った。
素晴らしいです。

LINK
世界を変えるデザイン <シンシア・スミス>