Sunday, October 31, 2010

ホリエモンの本

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①拝金 <堀江貴文>

何かと話題になっている『拝金』を読んだ。
フジとライブドアのバトルをメディアが囃し立てたのは記憶に新しいが、実はけっこう前の話。今やリーマンもこの世にはない。
当時ホリエモンという人を何か痛快に感じたのは正直な感覚として残っている。そして、最終的に逮捕されたときには残念な気持ちになった。何と言うか、日本に。「出る杭」がどうのという諺はあるが、そういうシンプルな教訓以外にもいろいろ学ぶことがあった一件だったと思う。
そんなことを懐かしみつつ、最近またTwitterでよく発言を見るようになったホリエモンの小説ということで単純に興味が湧いたのだ。

面白かったと思う。小説としてどうこうという論調はあるが、そんなのは抜きにして、中身が面白いと思った。ホリエモンという人は本当にオブラートに包むということをしない。まぁ相対比較の話だが。考え方がくっきりしていて良い意味で分かりやすい。多様な考え方を認められない類の人にとってはある意味ハラワタが煮えくり返るような人物なのかもしれないが、僕はそうではないので、単純に楽しめるし、学べる。

話としては、あの事件の裏側をリアルかつスピーディーなストーリーとして仕上げたものだが、こういう本を小説として出版するところに、ホリエモンの人間らしさを感じた気がする。この本には、マスコミによって不本意に作られすぎたホリエモンという拝金主義キャラクターの誤解をどうにか解きたい、自分の本当の信念を知ってもらいたいというホリエモン自身の願望がこれでもかと詰まっている気がする。実際、この小説の主人公「優作」に自分を重ねて読んでいけば、同じような結末を迎えるとまではいかなくても、共感できる部分が全くないといことはないだろう。むしろ、だからこそ、当時あれだけホリエモンは一定層から支持されたんだと思う。
僕自身、当時から、別にホリエモンが嫌いというわけではない。


②君がオヤジになる前に <堀江貴文>

こちらは新刊。併せて読んだ。
こちらは、小説とは違って、極端さが全面に出ている。
もちろん、ホリエモンの本なのだからそういう前提で買っているし、歓迎。
そもそも、自分にとって極端と思える内容の方が学びや気づきは多いし、自分の思想と一致するような自己啓発本を精神安定剤的に読むよりは全然生産的。

本書を買ったのは、表紙イラストが「カイジ」や「アカギ」の福本さんだったことが大きい。ホリエモン×福本さん、というのは絶対面白いだろうな、と。実際、本としては、ざっくりとした感じだったが、軽い文体の中にはけっこうエッセンスがあったりする。全体としては過激で乱暴な感じの本だが、そこからどういう情報と学びを得るかは読者次第。そういうことだ。

本書のまえがきにある定義には納得。というかここは常日頃考えていることと完全に一致。定義というのは次の二つ。

一つは、
「オヤジとは年齢的なものではない。あらゆることを、より良き方向へ改善しようとすることを放棄してしまった者たちへの表現だ。」(P2)

もう一つは、
「思考停止とは安定を求め、自分の皮膚感覚や感情、生き方そのものに、こだわりを捨てるところから始まる。」(P4)

このオヤジのことを僕はオッサンと読んでいる。何も男に限らない。僕が結婚したくない唯一のタイプは、幸せになることを放棄してしまった女性、幸せになるための努力を怠る人。そういう人とパートナーになっても2人でいる意味はないのかな、と。


内容の話をすると、個人的に面白かった部分は以下3点。

・「ここを逃がしたら後はない」という発想は、もっと先にあるはずの限界を、自ら近くに引き寄せてしまっているのだ。(P63)

背水の陣というスタンスは大事だし、それが助けになることは多いが、逆にこういう考え方も面白いな、と。強欲的なようでナチュラル。そんな感覚。


・どうやって仕事の幅を広げればいいのか。ひと言、仕事先に「お客さんを紹介してください」と言えばいい。(P86)

これはなかなかできない。恥だとか、プライドだとか、常識だとか、そういうものが邪魔してできないだけ。それをシンプルにできる人は強いなと思う。謙虚とかそういうのじゃない。強さだ。


・(移動には電車でなく)タクシーを使え。タクシーに平気で乗れるぐらいまで、時給をアップさせろ。(中略)極論すれば、もしタクシー代も出せないよな仕事をしているのなら、その仕事には何の価値もないのだ。(P121)

これだけ読めばインパクトが強いが、なるほどな、と思った。タクシー云々の問題ではなくてマインドの問題。時間という資源に無頓着なうちは青い。ここは非常に勉強になった。勉強というか刺激か。


最後に、本書が荒削りだが面白いのは、ホリエモン自身の「迷い」が入っていること。98%のことには思うところをズバズバと断定口調で書いているが、2%の部分に迷いが入っている。だからこそ面白い。

P136に、こうある。
「僕は君の考え方に共感はできない。しかし、君はおそらく、僕の知らない幸せをこれからも生きていけるのだろう。」

その通り。どういう風に幸せに生きていくかは人それぞれ。だから幸せな人はその道を行けばいいし、逆にくすぶっている人は本書のような本を読んで極端な考えに触れるのもいい。
ホリエモンも幸せとか成功とかに貪欲だが、貪欲であればあるほど、不安だし、実は心の底で迷いがあるのだろう。そういう意味で僕らと何ら変わりはない。
 

Saturday, October 23, 2010

振り子の話

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ろくに実家にも帰らず、電話もたまのたまにしかしない親不孝息子なのだが、前に電話をしたときに母からいいアドバイスを貰った。昔から徳がある、というかよく僕のことを分かっている、そういう母親だ。

以下は、貰ったヒントを自分の中で咀嚼して腹に落としたもの。


人生に出てくる振り子の話。


人は生涯で、いろいろなものに興味を持つし、いろいろな願望を持つ。
いろいろな人生の歩み方があるとも思っている。

特に、今いる環境とか生き方と対極にあるようなものに憧れることは多い。
今日これがいいと思えば、明日は別のものがいいと思えたりもする。

振り子のように、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、何かを模索する。

時に振り子の対極へジャンプすることは大事かもしれない。
リスクを取って何かに挑戦する、人生の舵を自分で大きく切っていく。

ただ、そのタイミングというのは難しいし、自分で答えを見つけることはできないのかもしれない。

だから、主体的な舵切りだけでなく、「自然に身を委ねる」ということも大事。


振り子の揺れは、あるとき自然と収束していく。


振り子の振幅があまりに大きいのは、まだ自分の中で整理ができていない証拠。
あれこれ迷ったときは、ちょっとほっといてみる。自分の振り子を一歩引いて見てみる。焦らない。それがいい人生のための一つのエッセンス。
 

Tuesday, October 12, 2010

ブラック・スワン

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ブラック・スワン (上)・(下) <ナシーム・ニコラス・タレブ>

この仕事をしているのにも関わらず、今になってようやく読んだ話題作『ブラック・スワン』。
雑誌などでも大流行だったので概要は知っていたが、あらためてしっかり読むとなかなか面白い。
論じられていることは非常にシンプルで、核心は下巻にある。これだけの内容でこの分量の本にできる著者は書き手として良くも悪くも、凄いなと思う。

本論はわかるのだが、本書の各論は結構難しい。特に前提知識のない人が、ある程度以上のスピードで読むと、わけが分からなくなるはず。基本的な統計学の知識があって、さらに不確実性(リスク)について普段から興味があり、考えているという人向け。まあでも、リスクというのは、世の中だったり人生だったりの中でかなり大事な要素であることは間違いないので、そういう意味では万人が考えて読むような本なのかもしれない。

ちなみに、原文を読んだわけではないが、訳文がどうもしっくりこない。読みづらい。本書を訳すのはかなりしんどそうだが…。

さて、内容に関して。ベル型カーブでリスクを捉え、ありえない確率の事象が起きたときには、後講釈をつけながら、正当な計算をしていたのに、仕方がなかった、と言って思考停止することに対する警鐘。これが主な主張で、最終的には、「自分でつくったゲームなら、だいたいは負け犬にはならない。」に行き着く。
さらに引用すれば、
「ありえないことが起こる危険にさらされるのは、黒い白鳥に自分を振り回すのを許してしまったときだけだ。自分のすることなら、いつだって自分の思いのままにできる。だから、それを自分の目指すものにするのである。」(下巻p218)
ということになる。


その他記憶に残った各論を抜き出しておく。

「救われた命は統計だ」(上巻p206)
これは同じことを常々感じていた。100万人が救われる薬があるが、100人には強い副作用が出るとしよう。副作用の被害者の弁護士は医者や製薬会社に噛み付き、メディアは深刻な顔をしてストーリーを語る。この薬で救われた人の利害はどこへいったのか。日本は薬が世に出るのに非常に時間のかかる国だ。新しい治療法についてもしかり。流行りの「何が正義か」の話にもなってしまうが、こういう議論に歪みがあってはならないと思う。


「最初にいるギャンブラーの母集団全体で見ると、ほぼ間違いなく誰か一人は、運だけですごい成績を上げてみせるだろう。」(上巻p218)
感覚的には不思議な現象。友達が、2の40乗人が参加するじゃんけんトーナメントで優勝したことを考えると、それは凄いことだと思う。どれだけ偶然が重なったのか。奇跡だ。ただ、視点を変えて、主催者側にとって、そういう奇跡の優勝者が生まれる確率は1だ。もちろん人を特定するか否かという話なので、確率の考え方としてどこもおかしなところはないのだが、この「基準点」の発想は重要。


「公平なコインがあると思ってくれ。つまり投げたときに表が出る確率も裏が出る確率も同じだ。さて、99回投げたら全部表だった。次に投げたら裏が出る確率はどれだけだろう?」(上巻p226)
これは僕が大好きな問いだ。
優秀なギャンブラーの答えは「ほとんどないよ」だ。つまり、次も表に賭けるに決まってる。
これはギャンブルにおいてあまりにも基本的で、頻出するシーンだ。
「そろそろさすがに裏じゃないかな。これだけ表が出るなんて確率的に奇跡なんだから」といって裏に賭けるような人はすぐさまギャンブルをやめた方がいい。本書で言うような話はおろか、古典的な確率の考え方すらわかっていない。
「50%。あくまでも1回1回の試行は独立だ。」これは学校の勉強を頑張った人の教科書通りの解答。並だ。でもギャンブルでは勝てない。
そもそも、99回投げて99回表が出ている時点で、コインが公平だという仮定そのものを疑うべき。


「生まれつき人間は、外れ値、つまり黒い白鳥を過小評価する性質が備わっている」
「人は異常な事象、とくに具体的な姿を持った異常な事象を過大評価する場合がある」(上巻p254)
これは保険会社の儲けの源泉。行動ファイナンスの分野には非常に興味がある。世の中の少なくない仕組みがこれを利用している。仕掛ける側は、いかに黒い白鳥をリアルに想像させるか、そこだ。


「人間はそんな非対称性に振り回される犠牲者なのだ。うまく行けば自分の能力のおかげだと思い、失敗すれば自分ではどうにもできない外生的な事象、つまりまぐれのせいにする。」(上巻p273)
これも不思議な現象だ。自己の精神保護のために人間に備わった思考回路なのだろう。もちろん、僕自身もその恩恵にあやかっている。ただ、この仕組みを客観的に認識しておくことは別途必要だ。


「投機的なベンチャー企業より、有望な株式市場、とくに安全な優良株に不安を感じる。後者は見えないリスクの代表だ。」(下巻p215)
見えるリスクを主体的にとるか、見えないリスクを受動的に取らされるか。多くの人はこの違いを感知することもなく、見えるリスクを避け、見えないリスクを取っている。これも非常に的を射ている。それを知らずにリスクの本質など語れない。
 

Saturday, October 09, 2010

欧州経済本

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①衝撃!EUパワー <大前研一>

昨年11月末に発行された、一応大前さんの欧州関連最新刊。昔から欧州に関してはPositiveな見方をしているようだが、本書も同様。欧州経済の教科書のような内容で、様々なデータをつなげて、一本のPositiveストーリーを描いている。筋は通っていて、ストーリーテリングも申し分ないのだが、この本の内容・考え方だけを丸呑みするのは問題がある。

大前さんの本としては、あまり光るところはなかったが、とりあえず欧州経済の概要を知るにはいいかもしれない。一つ面白かったのは、ユーロを「行きはよいよい、帰りは怖い」通貨だと表現している部分。財政規律を守れず制裁金を課せられ、ユーロから離脱することになる国があるとしよう。これだけ、経済にユーロが浸透してしまっているのだから、国として独自の通貨を発行し直したところで、流通通貨も決済通貨もしばらくはユーロのまま。そんな状況では当然に独自通貨は市場で見放され、価値を失うことになる。

欧州経済自体は全く侮れないし、ビジネスのマーケットとしても切るわけにはいかない。ただ、統合通貨としてユーロがこれからもうまくいくかどうかという点に関しては、正直グレーな気もする。行方や如何に。

現状、引き続き欧州各国の信用不安が続いているが、本書から1年が経とうとする今、大前さんは欧州をどう見るのだろうか。

②本当にヤバイ!欧州経済 <渡邉哲也>

大前さんの方がPositiveサイドなので、ほとんど同時期に発行されたNegativeサイドの本書も併せて読んだ。勝間さんではないが、本書に関してはAmazonのレビューはひどいなという感じ。内容のほとんどがネット上のニュースの引用で、そこに簡単な解説をつけただけのもの。時系列に永遠と記事の引用が続く。あまりにもストーリー性に欠くし、唯一一貫性があるのは、Negativeニュースを集めているという点のみ。今回の僕の利用法のように、Negativeニュースをざっとさらうのなら良いが、一冊の本としてこれはどうなんだろうと思ってしまう。

世のニュースの半分はNegativeニュースなわけで、こういう風に集めるのなら、どこの国についても、「本当にヤバイ!○○経済」という本が書けてしまう。