Sunday, July 19, 2009

myspaceCDについて考える

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今週のニュースからいくつか。

▼音楽発信をもっとfreeに。myspaceCDサービス開始。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20396561,00.htm
http://jp.ibtimes.com/article/biznews/20090713/37471.html
記事のポイントは以下の通り。
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・マイスペースとポニーキャニオンは7月13日、業務提携し、「MySpace」にてCD音源の販売サービス「myspaceCD」の提供を開始。
・MySpaceに登録するアーティスト(現在12万組)の音源をダウンロードし、ユーザーのPCにてCD-Rに書き込むことができるサービス。
・販売価格はアーティストが300~1万円のあいだで自由に選択可。
・将来的にはポニーキャニオン本体でのメジャーデビューまでを検討。

販売にかかる費用:
初期登録費用・月額固定費用:0円
販売手数料:販売価格の50%
サービス基本使用料:販売価格の25%(ただし101枚以降は無料)
⇒アーティストは金銭の負担なしでCDを販売できる。

・ポニーキャニオン事業開発本部本部長小林聡氏
「MySapceの2億ユーザーというフィルターを通して才能を発掘」

・マイスペース代表取締役社長大蘿淳司氏
3つのポイント
(1)CDのパッケージとしての力を再発見する
(2)MySpaceをアーティスト側からの「プロモーション」の場だけでなく、支援を行うことで次世代アーティストの積極的な発掘を行う
(3)日本のアーティストの世界展開を支援する

両社ではサービス開始1年で2,000人の利用(デビュー)と1億円のCD販売売上を目指す。
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審査はあるものの、利用者は金銭的には無リスクでCD販売ができるのだから非常に魅力的なサービスに見える。個人的にも面白いと思うし、参加してみたいなとも思う。

ただ、こうしたサービスの出現は下手をすると文化の破壊にも繋がりかねない諸刃性を持っていると思う。
「両社ではサービス開始1年で2,000人の利用(デビュー)と1億円のCD販売売上を目指す。」ということは、1人あたりの売上は50,000円/年。アーティストに還元されるのはその25%の12,500円。ローンチ1年目とはいえ、これでは「仕事」にはならない。もちろん、このMyspaceCDは「まず知ってもらうため」、「メジャーへの登竜門」としての位置づけになり、その場を利用して生計を立てるという趣旨ではないのだろうが、2億ユーザーというフィルターを通して選ばれた2,000人への待遇としてはちょっと物足りない。
プロスポーツ選手や芸能人、プロミュージシャンなどの世界は確かに選ばれし人たちの世界で、非常に厳しいもの。しかしそのプロの中で本当に「食べていける」人が少なくなったらどうだろう。文化的には難しい問題だと思う。
インターネットのような「個をエンパワーするインフラ」が創り出すチャンスというのは大きい。ただしかし、参入障壁を強制的に下げてしまうという側面には問題がないわけではない。今回のような「文化」の話では特にそうだと思う。プレーヤーが多くなり自由競争が高まることによって、一時的には、全体として出るアウトプットのレベルは高まるだろう。ただ、本来的には個の生活、創作環境あってのアウトプットなのだから、どこかで波は必ずブレイクポイントを迎えると思う。ルネサンスの時代からそうだが、パトロンあっての芸術・文化振興という面がある。

本件とは直接の関係はないが、坂本龍一は「音楽の価値」についてシンプルながら興味深い洞察をしている。
どこで読んだかは忘れてしまったのだが、僕もおぼろげながらに感じていた問題意識と合致し、妙に納得したのを覚えている。要旨は以下の通り(自分のメモファイルに残っていたものを転載。何かのインタビューだった気がする)。

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例えば、ベートーヴェンの第九っていうのは、72分かかるでしょ。で、昔は、アナログ版は2枚か3枚するのよ。そうすると、もし2枚なら、第九の値段は4,800円(アナログ版)だったのよ。それが、CDが出てくると、第九の値段は3,000円になるのよ。同じ第九が、4,800円から3,000円になっちゃうのよ。で、ネットで誰かがリップしちゃえば…、タダになっちゃう。だから、メディアの容量が上がってくれば、音楽自体はどんどん安くなっちゃう(笑)

で、これは音楽の値段じゃなくて、そのモノとそのモノを作るコストを算出した値段なんだよ。
だから、本当の音楽の値段なんてのは、わからないんだよ。わかる?フルオーケストラで72分の第九がいくらか、って?

僕もわかんないけど。でも、CDが3,000円のときは、それは音楽の値段だと思って買ってたでしょ。僕もそうだったよ。でも、今にしてみれば、あれは音楽の値段じゃなったんじゃないかって思うのよ。で、コンテンツのバリューっていうのは、長いスパンで見ると、どんどんどんどんゼロに近づいていくわけよ。
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加えて氏は、自著の中でも、「もう音楽では食べていけないな」と言っている。あの坂本龍一にそう言わせしめる時代の潮流に僕は危機意識を感じている。
参入障壁の突然の無力化、そしてコンテンツの本当の価値がはっきりしていない状況の継続。じわりじわりと進む利便性の向上と文化を生み出す場の保全をどうバランスさせるのか、一歩引いた目線で考えていく必要がありそうだ。


▼世界金融危機で富裕層減。資産減。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20090715-OYT8T00638.htm
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・世界で100万ドル以上の資産を持つ富裕層が2008年末は前年末比14.9%減の860万人となった(メリルリンチの調査)。
・国別では、米国が18.5%減の246万人で最多、2位は日本の136万人ながら、前年の151万人から9.9%減。中国は11.8%減の36万人だったが、26.3%の大幅減だった英国を抜き、ドイツに続く4位に浮上。
・富裕層が持つ資産残高も19.5%減の32兆8,000億ドル(約3,050兆円)と大幅に縮小。
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この記事の数字からだと、富裕層の定義に属する人々の平均資産額は3~4億円。日本の終身雇用型サラリーマンのうち最高クラスの数社の生涯賃金が4.5~6億円、また、人は平均して死ぬまでに2~3億円使うなどという話を勘案すると、所謂サラリーマンだとなかなか富裕層にはなれないようだ。日本人の136万人の内訳に興味あり。
そういえば、金融危機を受けての日本人の「やられ」度が他国に比して小さいことも興味深い。単にドル換算時の「円高」影響か、それともやはり現金持ちが多いために影響が少なかったのか。


▼藻でトウモロコシ超え?エタノール生産
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20090715AT2M1501Q15072009.html
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・エクソンモービルは、クレイグ・ベンター博士らが設立した米シンセティック・ジェノミクスと共同で、藻を使ったバイオ燃料の量産化技術を開発する。
・6億ドルを投じて実験用の温室を作り、光合成で繁殖する藻から燃料を量産する技術を開発する。
・ダウ・ケミカルも藻からエタノールを生産する実験を開始。トウモロコシなど食料を使わない代替燃料の開発が活発になってきた。トウモロコシから作る現在のエタノールより効率良く生産するのが目標で、今後5~10年内の実用化を目指す。
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藻の利用。それにしてもクレイグ・ベンターは遺伝子解読したり、人工生命?合成したり凄い。そのハングリーさ、日本人も見習った方がいい。藻で6億ドル呼び込むとは。
エタノールは間違いなくポスト石油なのだろうか。いまいちエネルギー周りの真実がわからない。
 

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