Sunday, May 17, 2009

柔らかな確率の話

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使える!確率的思考 <小島寛之>

久しぶりのヒット。
確率という考え方が実際の世の中をどう捉えるのか、難しい数式を使わずに、かなり踏み込んだところまで説明される。もっと早く読めばよかった。

確率と聞いて大半の人が思い浮かべるのは、昔数学の授業で習ったアレだろう。単純化された現象の起こりやすさを推定する非常にドライなイメージ。現実世界にはあまり適応できるような代物ではないという感覚を持っている人が多いだろう。確率の考え方は産業の現場においてかなり活用されているが、それも教科書で習うドライな確率の発展版であり、それしか知らない人にとっては本書で展開されるような確率論は斬新なものとなるだろう。

「どの目が出る確率も1/6となるように完璧に作られたサイコロ」のような、教科書で習う確率が対象とするものは現実世界にはあまりない。各々の事象の起こりやすさが完璧に決まっているのであれば、地道に確率計算を積み重ねてゆき、目的の事象の起こる確率を算出してそれをもとに判断をするということは可能であるし、しっくりもくる。しかし、実際には確率計算どおりに現実は動かない。そういうズレがあるからこそ多くの人は、確率というのは机上の空論で参考程度にしかならないもの、人間心理を無視したドライなもの、というように捉えがちだ。

本書はこうした確率のイメージを超えた、何というか「生」感覚のある確率の考え方を説明するもので、非常に新鮮だった。比較的馴染みのある確率の考え方で日常現象を考えてみるところから始まり、徐々に「頻度主義」、「統計的確率」というドライな理論から抜け出していく。ベイズ推定の解説などを通して、次第に意思決定のための確率論が展開され、最終的に最新の理論を紹介しながら「仕組みの見えない不確実性」に対しての考察がなされる。

新書の形式でこれだけお手軽に確率の考え方を学べる本もそうないのではなかろうか。読了しても理解度70%程度の僕にはもちろん不可能だが、良く分かっている人でも、これだけ面白い本は書けないだろう。

本書とその著者について最後に特筆すべき点は、数学者・経済学者であるにも関わらず、一人の人間の人生や現実世界に対する見方が非常に人間味溢れていることだろう。

「不確実性下の選択というのは、各自の生きている社会の構造と不可分なのである。」(p215)と捉え、「合理的な選択」と「正しい選択」との違いを真剣に考察する研究者の存在と確率論の進化を初めて知った。
 

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