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アイデアのつくり方 <ジェームス・W・ヤング>
いたる所で引用されている古典的名著で、存在自体は知っていたものの読んでいなかった。
最近友人のうち3人が読んでいたことを知り、かつそこそこ高評価だったので読んでみることに。
Newtonの初代編集長だったりする地球物理学者、故・竹内均氏が解説を書いていることにむしろ驚きつつ読み始めたが、本文のあまりのコンパクトさにびっくり。ほんとにエッセンスだけ書いたという感じ。
内容は以下に数行で書けてしまう。
①アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。
②それを創出する技術は訓練によってほとんど誰でも習得しうる。
というのがコアで、さらに、アイデアが生まれるまで(アイデアを創出するまで)のステップは意識的にも無意識的にも以下の5段階だという。
(1)情報の収集・貯蔵
(2)情報の咀嚼
(3)情報の組み合わせ(無意識下)
(4)アイデアが突如出現→捕獲
(5)具体化・現実化
以上だ。
①は耳にタコができるぐらい聞き続けていることで、斬新さのかけらもないが、たぶん世に出ているアイデア創出に関する書物や記事がむしろこの古典を由来とするものなのだろう。(もしくは本書よりももっと前からある考え方かもしれないが)
(1)~(5)のプロセスも至極普通。僕個人としてもかなり実感がある。ただ、意識的にやろうとするとかなり難しいし、うまくコントロールできない。
②は希望的観測。本書で言う「アイデア」がどんな種類の「アイデア」かによる。
本書では芸術や科学領域にも多少言及し、「広告」というビジネスフィールドでの「アイデア」からあらゆる「ひらめき」にまで「アイデア」という単語の意味を拡張しているように思える。ビジネスフィールドや下手すると科学領域まででの「アイデア」に関しては確かに本書の纏めは本質的。99.9%の凡人でも訓練次第で99.9%までのアイデアは作り出せるのだろう。希望の書であるし、多くの人が読むに値する価値ある書だと思う。僕もおそらく99.9%の凡人側なので、ヤングの纏めた前提やプロセスを意識することは非常に有用だと思う。
ただしかし、「アイデア」という単語の守備範囲をあらゆる「ひらめき」、「クリエイティブ」というところまで拡げた場合、ヤングは非常に頭が良く示唆に富んでいるが、残念ながらおそらく99.9%の凡人でしかない。それが僕の意見。そもそも真の「アイデアマン」、「ひらめきすと(勝手な造語)」、「創造者」、「芸術家」はこういうプロセスを無意識的にも踏まずして内発的に新しいものを生み出すのだろう。ヤングの言うアイデア創出プロセスはインプットありきだが、インプットがなくとも天才は自分の中から何かを生み出す。無垢な子供や赤ん坊が天才的なアウトプットを生み出すこともしばしば。それも無意識的に情報の咀嚼、組み合わせをやってのものだろうか?そんなことはないと思う。
大人になっていくにつれ「枠」に支配されるようになる。情報の収集・貯蔵・咀嚼でアイデアの元となる種の量と質を高めても、そしてその組み合わせ方は莫大だとしてもそれは有限なもの。出てくるアイデアは、機械が膨大な順列組み合わせ計算の結果として捻り出せるレベルのものなのだろう。そうではなくて、考え方の枠を設けず、既存の要素の組み合わせという「有限」の世界から脱却してこそ人間のみが創出しうる天才的アウトプットがあるのではないだろうか。
僕はおそらく凡人だが、それでもアイデアというものを大人の思考方法で「檻」に閉じ込めたくない。
別な言い方をすれば、人間のもつ創造力の可能性をもう少し信じたい。
ところで、本文とは別に、竹内氏の解説の中で印象に残った部分が2箇所あったのでメモ。
『デカルトによれば、人々はそれぞれの人生の大目標をもっており、その実現に全力をそそいでいる。しかしその一方で、人々は日常的な生活を生きなければならない。この場合に、その日常的なことがらの一つ一つについて熟考するのは面倒なことであり、頭脳と時間の浪費でもある。こういう場合には、最も常識的で最も穏健な意見にしたがうのがよい。どうでもよいことについては中庸の道を選ぶことによって、われわれは自分自身の人生の大目標に全力を集中しえる。このように考えると、中庸はいい加減な人生を生きる中年の処世術といったものではなくて、積極的な徳目である。』(p81)
デカルトは全然読んでないんだけど、今度岩波文庫辺りから攻めてみようと思う。「積極的な徳目」ってすごいな…
『私の考えでは、①好きなことをやり、②それで食べることができ、③その上それが他人のためにもいささかの役にたった人生が自己実現の人生であり、理想の人生である。』(p87)
これはすごい。僕が昨年の人事書類でしれっと書いたこととほとんど同じ(もうちょっとマイルドに書いたが)。"just参考"で仕事観、人生観を自由に記入する欄だったにも関わらず、上司に目をつけられ…
確かに勤め人としては的外れな戯言なんだけれど、そういうの潰しにかかってくるのはどうなんでしょうね。
Sunday, June 07, 2009
アイデアのつくり方
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