Tuesday, October 12, 2010

ブラック・スワン

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ブラック・スワン (上)・(下) <ナシーム・ニコラス・タレブ>

この仕事をしているのにも関わらず、今になってようやく読んだ話題作『ブラック・スワン』。
雑誌などでも大流行だったので概要は知っていたが、あらためてしっかり読むとなかなか面白い。
論じられていることは非常にシンプルで、核心は下巻にある。これだけの内容でこの分量の本にできる著者は書き手として良くも悪くも、凄いなと思う。

本論はわかるのだが、本書の各論は結構難しい。特に前提知識のない人が、ある程度以上のスピードで読むと、わけが分からなくなるはず。基本的な統計学の知識があって、さらに不確実性(リスク)について普段から興味があり、考えているという人向け。まあでも、リスクというのは、世の中だったり人生だったりの中でかなり大事な要素であることは間違いないので、そういう意味では万人が考えて読むような本なのかもしれない。

ちなみに、原文を読んだわけではないが、訳文がどうもしっくりこない。読みづらい。本書を訳すのはかなりしんどそうだが…。

さて、内容に関して。ベル型カーブでリスクを捉え、ありえない確率の事象が起きたときには、後講釈をつけながら、正当な計算をしていたのに、仕方がなかった、と言って思考停止することに対する警鐘。これが主な主張で、最終的には、「自分でつくったゲームなら、だいたいは負け犬にはならない。」に行き着く。
さらに引用すれば、
「ありえないことが起こる危険にさらされるのは、黒い白鳥に自分を振り回すのを許してしまったときだけだ。自分のすることなら、いつだって自分の思いのままにできる。だから、それを自分の目指すものにするのである。」(下巻p218)
ということになる。


その他記憶に残った各論を抜き出しておく。

「救われた命は統計だ」(上巻p206)
これは同じことを常々感じていた。100万人が救われる薬があるが、100人には強い副作用が出るとしよう。副作用の被害者の弁護士は医者や製薬会社に噛み付き、メディアは深刻な顔をしてストーリーを語る。この薬で救われた人の利害はどこへいったのか。日本は薬が世に出るのに非常に時間のかかる国だ。新しい治療法についてもしかり。流行りの「何が正義か」の話にもなってしまうが、こういう議論に歪みがあってはならないと思う。


「最初にいるギャンブラーの母集団全体で見ると、ほぼ間違いなく誰か一人は、運だけですごい成績を上げてみせるだろう。」(上巻p218)
感覚的には不思議な現象。友達が、2の40乗人が参加するじゃんけんトーナメントで優勝したことを考えると、それは凄いことだと思う。どれだけ偶然が重なったのか。奇跡だ。ただ、視点を変えて、主催者側にとって、そういう奇跡の優勝者が生まれる確率は1だ。もちろん人を特定するか否かという話なので、確率の考え方としてどこもおかしなところはないのだが、この「基準点」の発想は重要。


「公平なコインがあると思ってくれ。つまり投げたときに表が出る確率も裏が出る確率も同じだ。さて、99回投げたら全部表だった。次に投げたら裏が出る確率はどれだけだろう?」(上巻p226)
これは僕が大好きな問いだ。
優秀なギャンブラーの答えは「ほとんどないよ」だ。つまり、次も表に賭けるに決まってる。
これはギャンブルにおいてあまりにも基本的で、頻出するシーンだ。
「そろそろさすがに裏じゃないかな。これだけ表が出るなんて確率的に奇跡なんだから」といって裏に賭けるような人はすぐさまギャンブルをやめた方がいい。本書で言うような話はおろか、古典的な確率の考え方すらわかっていない。
「50%。あくまでも1回1回の試行は独立だ。」これは学校の勉強を頑張った人の教科書通りの解答。並だ。でもギャンブルでは勝てない。
そもそも、99回投げて99回表が出ている時点で、コインが公平だという仮定そのものを疑うべき。


「生まれつき人間は、外れ値、つまり黒い白鳥を過小評価する性質が備わっている」
「人は異常な事象、とくに具体的な姿を持った異常な事象を過大評価する場合がある」(上巻p254)
これは保険会社の儲けの源泉。行動ファイナンスの分野には非常に興味がある。世の中の少なくない仕組みがこれを利用している。仕掛ける側は、いかに黒い白鳥をリアルに想像させるか、そこだ。


「人間はそんな非対称性に振り回される犠牲者なのだ。うまく行けば自分の能力のおかげだと思い、失敗すれば自分ではどうにもできない外生的な事象、つまりまぐれのせいにする。」(上巻p273)
これも不思議な現象だ。自己の精神保護のために人間に備わった思考回路なのだろう。もちろん、僕自身もその恩恵にあやかっている。ただ、この仕組みを客観的に認識しておくことは別途必要だ。


「投機的なベンチャー企業より、有望な株式市場、とくに安全な優良株に不安を感じる。後者は見えないリスクの代表だ。」(下巻p215)
見えるリスクを主体的にとるか、見えないリスクを受動的に取らされるか。多くの人はこの違いを感知することもなく、見えるリスクを避け、見えないリスクを取っている。これも非常に的を射ている。それを知らずにリスクの本質など語れない。
 

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