Sunday, September 28, 2008

光と影な2冊

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対照的なタイトルの2冊。

①サラリーマンなんか今すぐやめなさい <堀紘一>

堀さんの本を1冊でも読んだことがある人なら、本書のタイトルを見て、サラリーマンじゃなくてビジネスパーソンになれということだとすぐわかる。堀さんの本はどれも内容が似ている気がすることもあり、最近あまり読んでいなかった。ただ、学生の時とは違った視点でも読めるだろうということで本書を読んだ。
しかし内容はというと、やはり軽い自己啓発本といったところ。新たな視点などあまりなかった。堀さんは自分のことを凡人だなんて書いているけど、全然凡人じゃないですよ。かなりね。
一つ、語学習得に関しては非常に凡人目線で書いてあるなという感じ。日本人ビジネスパーソンの多くの人には英語習得は費用対効果が悪すぎるから、いっそ捨てて、他のところに投資して差別化を図りなさいという主張。一理あるとは思いながらも、僕は日本、そして日本語のプレゼンスが加速度的に低下している中、これから自由に生きるためには基本的なツールになると信じてやまないので、中途半端ながらも勉強を継続しようと思う。


②今日、ホームレスになった <増田明利>

DIの超スピードIPO、そしてBCG時代も年収2億円だったと、光があたりまくりの堀さんが書いた①の本とは対照的に、本書は15人のホームレスの実態を取材したノンフィクション。このような本の性質上、サンプルのとり方にも偏りはあるだろうし、ホームレスの全てを知った気になってはいけないが、少なくとも、普段軽視しがちな彼らの実態そして背景に触れることができる本。
ホームレスの人たちは今だからこそああして暮らしているが、彼らにも人生、歴史はある。そしてそれは何食わぬ顔をして毎日通勤している会社員の生活とかけ離れたものではない。
本書は特に、サブタイトルに「15人のサラリーマン転落人生」とあるように、もとは普通の勤め人だった人がどのように転落したのかという点に主眼を置いている。外資ファンドマネージャー、総合商社管理職、大手メーカー○○長、中小企業経営者…と彼らの職歴を振り返ると、日本の平均的なサラリーマンよりむしろ社会的には成功者として見られるようなもの。それでなぜ今はホームレスなのか。
本書で語られている範囲だけで考えると、いくつかの共通点があるように思える。すなわち、
①バブル
②感覚の麻痺
③井の中の蛙
④借金

①バブル
これは彼らに責任はないかもしれない。景気が悪くなったのだからしょうがない。しかし、多くの場合バブルが人間の感覚を麻痺させ、転落へのトリガーとなったことは事実。

②感覚の麻痺
人間の感覚というのは麻痺するのは簡単だが、元に戻すのは難しい。①でトリガーがひかれた後も、感覚を戻せないために耐えられるはずのところを耐えず、結果として人生をふいにしたというケースは多い。環境に麻痺させられるのではなく、自分の頭で考えたニュートラルさを維持したいものだ。

③井の中の蛙
同じ組織・業界にずっといると居心地が良くなってくるものだ。そしてその組織・業界内でだけしか通用しないルールの中でゲームをすることが上手くなっていく。特に日本の大企業の場合、社歴の長い人の行動が社内ルールに等しいというような奇妙な状態もある。そうすると、その年長者は自分が何でもできるかのような錯覚に陥る。さらに、自分の実力に大会社ならではのレバレッジをかけてビジネスをしているという事実を忘れてしまえば、ますます"井の外"では何もできない危険な状態に陥る。

④借金
金融リテラシが個人レベルに浸透していないにもかかわらず、ローンという名前の借金の形態が広く受け入れられているこの状態は何なのだろう。自分で計算もできない、リスクもまったく定量的に考えられない人々が金融機関にカモられている現実がある。①②③とこの借金が組み合わさったときは最悪で、一気に返せないという状況に陥る。そもそも、何かしらの default があったときに返せないような借入の仕方をしているのが間違い。家計もB/Sで考えろという人がよくいるけど、リスク管理という意味ではそれぐらいしてもいいのだろう。異常なレバレッジをかけた住宅ローンを組んでいる人が多すぎ。


①などの環境的な異常事態や、勤めていた会社の倒産が運悪く起きたときに、②③④のような要素の合わせ技に遭うと途端に自己破産したり、ホームレスになったりする。人間ただでさえ、健康などのリスクも抱えているのだから、不要なリスクは保持すべきではない。チャレンジの代償としてリスクをとるのは生き方そのもの、大いに結構なのだが、何のリターンもない不要なリスクなどとるべきではない。特に④借金の話などは、机の上の学習でも回避できるものだとは思うが、②③のような人間の性質的なものはかなり意識を高めなければ容易に陥るものだ。その点、ホームレスの人々を他人事などとは思わずに、教訓としたいものだ。

そういえば、もう一つ。
ホームレスの人にも少し前までには普通の人と変わらない生活があったという意識をもっと持てば、理由もなく虐げたり、ましてや少年が虐待をするなどという事件は起こらないのではないだろうか。
 

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