Sunday, August 02, 2009

建築家 安藤忠雄

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建築家 安藤忠雄 <安藤忠雄>

素晴らしい本。ここ1年で読んだ本のBEST3には入ってくる。
最近「自伝」というジャンルの本を読むのが面白くなってきたように思う。昔は、自伝というと自分とは違う人が自分とは違う価値観に基づいて自分とは違う時代を過ごしてきた記録であり、そんなに気づきの多いものではないと思っていた。どちらかというと何かを得に行くというよりは読み物として楽しむものという整理だ。
そう捉えていた自伝が面白くなったのには二つ理由があるように思う。一つは、自己啓発の類の本をいろいろ読んだこと。自己啓発本からは多くのことを学べるし、視野を広げることもできるが、次第に、極端に言えば「どれも言っていることは同じ」というように感じてくる。新しい発見はもちろんあるが、内容が被ってくるのだ。そして何だかストレートに腹に落ちなくなってくる。「そういう考え方、視野があることは知っている」という状態で止まってしまって次のステップに行かないときがよくある。実生活での学びと上手く結び付けられればいいのだが、あくまでも「本」の中での話をすると、自伝が効く。自己啓発本で何となくinputしたようなことが、自伝を読んでいると繋がってくる。実生活に繋がったときほどではないが、科学の教科書で学んだ知識を実験によって確かめるような感覚がある。もう一つは、自分が以前と比してより人生について真剣に考えているということ。そろそろもやもやしたところから転機というかブレイクスルーを起こしてもいい歳なわけで、自伝を読んでいても、その人の一瞬一瞬の選択について真剣に考えてしまう。もはや僕でも書けてしまうような月並みな自己啓発本より、一回きりの真剣勝負そのものである自伝の方が面白いし、学びも多い。

さて、本書は、安藤建築を見ながら(写真も豊富)安藤さんが建築に対してどういう考え方をしているのか、そして建築家としての人生で何を感じてきたのか、どう生きてきたのか、そういうテーマが凝縮されている。正直、安藤建築は4つか5つぐらいしか頭に思い浮かばず、安藤さん自身についても、「元ボクサー」、「大学に行かずに独学で建築を勉強」ぐらいの断片的な事実だけしか知らなかったので、面白すぎて引き込まれるように読んでしまった。また読みたいのだが、面白かった部分を以下に一部メモ。

・建築家とは「社会的な組織をもった個人」(アーティストと建築家との違い)
・個人が組織に飲み込まれるようになってしまえば、その建築家は終わりだ。
(p11~12)

⇒建築家と芸術家との違いは何なのか、ということは非常に気になっていた。安藤さん自体が、建築家ではなくて芸術家だと揶揄されることがあるが、僕は本書の安藤さんの考えに触れて、やはりこの人は建築家なのだと感じた。安っぽい言葉で言えば、芸術家のように主張する建築家という感じ。


・モノづくり=モノに生命を与える尊い仕事(p36)

⇒モノに生命を与えるとは言い得て妙だ。物質とモノとの違いについて、よく分かる。


・知のレベル:抽象的な言葉≪≪実体験(第2章)

⇒ボクサーをやめ、24で世界放浪の旅に出た安藤さんが痛烈に感じたこと。これは本当にそうだろうなといつも思う。上述の、自己啓発本からの学びと自伝からの学びとの違いもこれと同じこと。


・既成のものを否定し、今に反逆する…経済国ニッポンへとなし崩し的に進んでいく社会にあって、安保闘争に始まる60年代には、それに抗って自分たちの人生を生きようという時代の精神が確かにあった。
・時代が、社会が、人間の感情を揺り動かす力に満ちていた。揺さぶられ、突出してきたありとあらゆる異形のものを、許容する包容力があった。
(p58~60)

⇒すごい表現だと思う。「人間の感情を揺り動かす力」…これにはかなり興味がある。個が圧倒的に弱いと感じる。世の中こんなに丸くて、画一的な価値観の下で動いていていいのだろうか?時代として、ひいては個人として面白いのだろうか?これは僕にとっても大きなテーマであると思う。


・世界の代表的な都市に見られる「時間の豊かさ」…1世紀以上昔の建物が、当たり前に使われ続けていて、その中で現代アーティストの前衛的な活動が繰り広げられている…そんな過去と現在、未来が渾然一体と重なり合う情景に、非常に新鮮な感動を覚えた。…成熟した都市の文化。(p107)
・一つの集合住宅の中に一つの街、共同体が育まれるのに充分な生活要素が封じ込められていた。そこには、単に量の供給を目的とした経済的メリットだけではない、集まって住むことでしか得られない豊かさが、はっきりと提示されていた。(p182)

⇒本書では「豊かさ」について考察する部分が散りばめられている。物質的な豊かさではなくて、どのような豊かさを人々に提供できるか、これについても僕の人生の中の「仕事」という側面において重要なテーマとなるだろう。


・やりたいことを見つけたら、まずはそのアイデアを実現することだけを考える。現実問題としてどうか、というのはあとで考えればいい。だから依頼を受けた敷地だけではなく、隣の敷地の建物まで設計して、模型をつくることもよくある。(p239)
・無謀な挑戦なのは分かっている。だが、無駄に終わったとしても、遠くに投げたボールを追いかけ走っていれば、進むべき道は見失わないでいられるだろう…そんな気持ちで毎日を過ごした。(p244)

⇒こういう姿勢いいと思う。簡単に見習えるものではないが、これぐらいの気概をもって生きたい。特に2つめのような生き方をしたからこそ、安藤忠雄という建築家は大成したのだろう。自分の生き方を見失いそうになっている人にとっては大きなヒントとなるはず。


・建築もまた、完全なるグローバリゼーションの時代を迎えた(p262)

⇒そう思う。建築家は自分の力を最大限活かすフィールドで仕事をしているだろうか?人々は世界中の建築家が生み出す可能性を考慮に入れて、自分の家のデザインを考えているだろうか?建築のグローバリゼーションを人々の豊かさに変換できるようなプラットフォーム作りには非常に興味がある。


・現実の世界では、本気で理想を追い求めようとすれば、必ず社会と衝突する。…連戦連敗の日々を送ることになるだろう。それでも、挑戦し続けるのが、建築家という生き方だ。
・何を人生の幸福と考えるか、考えは人それぞれでいいだろう。私は、人間にとって本当の幸せは、光の下にいることではないと思う。その光を遠く見据えて、それに向かって懸命に走っている、無我夢中の時間の中にこそ、人生の充実があると思う。
(終章)

⇒建築家に限らず、だと思う。終章は建築から少し離れて、安藤さんの人生観に触れることができる。本書を読むと、安藤さんの人生は、必ずしも才能まかせの恵まれた、誰もがうらやむ光だけの人生ではないということに気づく。陰の中でどう生きるか、これが人生の本質なのかもしれない。

フローベールも次のような言葉を残している。
"The most glorious moments in your life are not the so-called days of success, but rather those days when out of dejection and despair you feel rise in you a challenge to life, and the promise of future accomplishment."

光の教会
 

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