Monday, August 17, 2009

新世紀メディア論

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新世紀メディア論 新聞・雑誌が死ぬ前に <小林弘人>

「メディア」についてかなり熱い本。メディアには直接関わっていない僕は正直そのパッションについていけなかったのと、カタカナが多すぎる業界っぽい文章に疲れ、読了するのにかなり時間を要した。

小林さんはウェブメディアで成功している人だし、題名や前半の語り口からも、新聞や雑誌のような古いメディアはもうダメで、新しい形(ウェブ)に目を向けなさい、というような本かと初めは思った。ただ、読みにくい文章を越えて後半になって、いや最後の最後になって著者の想いが分かったように思えた。著者はメディアの本質自体が今とは違う何かに変わるとは言っていない。メディアや編集者というのは本質的には不変で、環境、形が変わっただけだ、と。新聞や雑誌という今衰退中の媒体の上で活動するメディア人、編集者の考え方が媒体の形式ありきになってしまっていて、それについて「違うだろ」と警鐘を鳴らしている。さらに著者は実はかなり紙メディアにも思い入れがあるように感じられる。p275辺りで特にそうした色が出ている気がする。紙には紙のいいところがあり、ウェブとは違う役割を果たせることを説いている。

僕はメディアに対し特に一家言があるというわけではまったくなく、普通に消費者として関わっている身だが、メディアについて誤解していたことが多分にあった。まだうまく言語化できるほど理解できていないが、本書は僕が考えていたものよりずっと上の概念の話をしていた。何回も読めばもう少し理解できるのかもしれないが、今回はとりあえずそれだけ感じることができた。読んでいて最初はつまらないと感じる本ほど深みがあったりする。

以下気になったところを簡単にメモ。(引用or要約)

・メディアビジネス=コミュニティへの影響力を換金すること(p22)

・「誰でもメディア」時代に突入。ただ、だからといって誰でもプロとしてやっていけるわけではない。カメラの例と同じ。誰でも写真は撮れるがプロ写真家としてやっていけるわけではない。「存在感は増しているのにもかかわらず、価値がデフレーションを起こしている。」(Lecture01)
⇒これは以前のエントリーで書いた音楽の価値の話と同じ。

・アテンションこそメディアの通貨(p31)

・クリエイティブの原点は共感の創出(p112)
⇒この一節は深い。

・「損益?赤字ならほかでバイトして、それをやり続けるだけですよ。」の発想の台頭で、メディア高給状態が崩壊。(p138)
⇒これがあるからウェブビジネスには正直手を出す気にはなれない。

・紙がやるべきこと→人間のキャパシティに合わせて情報をスクリーニング。「稀少性」の訴求。旧来のような情報コモディティ(日用品)から嗜好品への転換。(p179)
⇒「紙は嗜好品」の発想はかなり先進的。確かにそうなると思う。問題はいつ頃そうなるか。

・ウェブメディアの時代では、以下3つのスキルセットが必要。(p192)
(1)ウェブ上での人の流れや動きを直感し、情報を整理して提示する編集者としてのスキル
(2)システムについての理解、UIやデザインについての明確なビジョンと理解
(3)換金化のためのビジネススキーム構築までを立案できること

・「わたしが自ら会社を興したのも、社内での根回しや他部署との闘争などに辟易していたからです。出版の前に、まずは社内政治を戦い抜くだけで疲労してしまうわけですから。そして、その次には取次企業、あるいは代理店のネゴというふうに、真に見据えなければならない読者コミュニティからはほど遠くなっていくのが現状です。」(p223)
・「フローの高いウェブメディアでは、読者は上司の決裁など待ってくれない」
⇒これはメディアに限らずあらゆる大企業のBtoCビジネスに関係すること。大企業でも中小でも個人でも誰でもほとんどハンデなしに戦える環境ではこういう姿勢のBtoCはすぐに淘汰されるだろう。

・メディアビジネスの変遷。「ラージ・フォーカス、スモール・プロフィット」から「スモール・フォーカス、スモール・グループ、ラージ・プロフィット」へ。(p225)

・従来のパッケージング・メディアはそれ自体が完結しているのに対して、ウェブメディアはフローによって成立する。故に、そこからアクションを起こすことに繋げなければ意味がない。(p244)

・「人間は便利を欲しつつも、どこかで折り返し地点のようなものを内蔵していて、過剰な便利さに疲労するとそれを折り返し地点とした揺り戻しが起きるのではないかと。」(p286)
⇒同感。絶えず進化を続ける時代において大事なポイントだと思う。
 

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