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「裸のサル」の幸福論 <デズモンド・モリス>
面白い。
「裸のサル」で有名な英国動物学者のモリス博士が"幸福とは何か"という問いに一味違う切り込み方で挑んだもの。哲学的な幸福論でもなく、自己啓発色が強いわけでもなく、非常に冷静に一歩引いた視点から人間という種の保有する性質を考えている。
本書の"はじめに"は以下のように始まる。
『私を不幸にしようと思ったら、確実な方法が一つあります。それは、「こうすればあなたの人生はもっと幸せになりますよ」と、私にお説教をすることです。』
こういう文言から始まる幸福論というのも何ともホッとする。
本書のコンセプトは客観的に人間の幸福を据えることだが、2つの意味で非常に有意義な書であると思う。
第一に、自分の知らない幸福発生機構の気づきにつながるという意味。第二に、幸福の追求に基づく他人の性格・行動が理解できるようになるという意味。
本書のメインパートでは幸福を17種類にカテゴライズし、それぞれが人間のどのような基本的性質に基づいて起こるものなのか掘り下げていく。この分類はあくまでモリス博士が思いつくだけのものであり、僕にとっていわゆる"MECE"な分類かというと、そうでもない。この分類にはないようなものも僕は幸福に感じる。ただ、それでも網羅性という意味では高いレベルであると思う。
なかでも秀逸だと思ったのが、8番目の分類である「痛みの幸福(マゾヒスト)」という項目。
その中で精神的マゾヒズムの部分についての一部を抜粋すれば、
『(ピューリタンについて)彼らにとって幸福は、自己否定の形でやってきます。何であれ、過ぎたる快楽は唾棄すべきもの、呪われたものであると見なす精神的立場をとっているわけです。 (中略) これは反快楽主義のマゾ的幸福です。より質素で、厳格で、禁制の多い生活であればあるほど、幸福も大きくなるのです。』
非常に興味深い章でした。
本書の最後には45ページほどにわたって「幸福の定義集」なるものが収められている。これも、本当に一義的に定義するために集めてあるわけではない。従って決して共通項を取って一つにまとめるというようなことはない。あくまでも、様々な文言から"発見"や"共感"をするのは読者自身だ。
以下、僕の感覚と match した12文言を抜粋。
~QUOTE~
①幸福は何の条件付けもしない時にのみ感じられる。
by アルトゥール・ルービンシュタイン
②幸福とは、追求しないことによってのみ捕らえることができる。
by F・L・ルーカス
③幸福は探していない時、しばしば見つけられる。
by ジョージ・アーリス
④幸福とは、今のままでいたいと思う時のことである。
by デジデリウス・エラスムス
⑤幸福がしばしば見過ごされるのは、カネがかからないからだ。
出典不明
⑥幸福とは、他人をあまり気にしなくてよいことである。
by アルベール・カミュ
⑦幸福とは、後悔しない快楽。
by ソクラテス
⑧幸福とは、健康な体と悪い記憶力。
by イングリッド・バーグマン
⑨幸福とは、芸術の中に閉じ込もり、その他のこと全てを無と考えることである。
by ギュスターブ・フローベール
⑩幸福とは、自らの幸福の欠如にも腐らない天才の探求と喜びである。
by スピノザ
⑪幸福とは、見えないものの中に存在する。
by エドワード・ヤング
⑫幸福とは宗教のように不可思議なもので、決して合理的に捉えるべきではない。
by G・K・チェスタトン
~UNQUOTE~
ちなみに、モリス博士の有名著書「裸のサル」は以下。
Thursday, July 10, 2008
「裸のサル」の幸福論
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2 comments:
難しい命題だな。
どういう時幸福を感じるかは内面の問題であって自分の中にしか答えはないし、その自分すら刻一刻と変化しゆくものだからね・・
幸福にはいろいろな形があるということです。
自分と他者の幸福の源泉はいかなるものなのかモニタリングしながら、人間関係を構築していく、もしくはしていかないというのがスタンスとしてはいいのかもしれませんね。
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