Sunday, August 10, 2008

人を動かす

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人を動かす <DALE CARNEGIE>

言わずと知れた名著を読んだ。
あらゆる自己啓発書の原典とも言われる本書はやはり読む価値があった。
デール・カーネギーは本書の他にも多くの自己啓発書の類の本を書いているが、これだけの事例を取り上げ、これだけヒューマンスキルの研究をしたことは賞賛に値するとしか言いようがない。
本書が書かれたのはとうの昔だが、社会構造が大きく変化した現代においてもこれだけ多くの人が読んでいることには驚かされる。やはりそれだけ素晴らしい本なのだろう。

さて、本書のジャンルであるが、一見すると対人関係戦略論。相手の心理構造を考え、自分の nature の感情をぐっと抑え、効果的な言動・行動をする。そういうメソッドが相当数の事例とともに解説されている。
そういう見方をすると、本書の内容を完全に実践している輩は何だかイヤな奴に映る。営業など、ビジネスのシーンでは非常に役に立つ内容ではあるが、ビジネス以外での対人関係においてここまで戦略的になるのは少々気持ち悪くさえ思える。
ところが、本書に対するスタンスや読み方によっては、そして何度も本書を読むことによっては別の境地に達するのだろうとも思える。すなわち、何も考えずに自然と本書に書いてあるような思考ができるようになったとき、本当に「幸せな人」や「偉人」…になれるのではないかと思うのだ。

p.300に以下のような記述がある。
『重ねていう。本書の原則は、それが心の底から出る場合にかぎって効果をあげる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。』

まだ僕には本書の内容を完全に自然なものにすることはできないと思う。だいぶ時間はかかりそうだ。しかし、本書の内容を当たり前なこととするべく努力し、そのために本書も何度も読み返したいと思う。


ところで、本書の核は以下の記述そのものだ。
『人を動かす秘訣は、この世に、ただひとつしかない。この事実に気づいている人は、はなはだ少ないように思われる。しかし、人を動かす秘訣は、まちがいなく、ひとつしかないのである。すなわち、みずから動きたくなる気持を起こさせること…これが、秘訣だ。』(p.33)

フロイトやジョン・デューイを参考にして人間のあらゆる行動の動機を考えたとき、それは「自己の重要感」と「性の衝動」とに集約されるとし、本書は前者にフォーカスして書かれている。
その「自己の重要感」についての重要な記述が例えば以下2つだ。

『人はだれでも他人より何らかの点ですぐれていると思っている。だから、相手の心を確実に手に入れる方法は、相手が相手なりの世界で重要な人物であることを率直に認め、そのことをうまく相手に悟らせることだ。』(p.144)

『自己主張は人間の重要な欲求のひとつである。』(p.70)

「自己の重要感」というのは確かに人間にとって非常に重要な「生きている価値」かもしれない。逆に言えば、それがなければ存在意義がないという不安にさえ駆られる。人間は自分が存在することの意義を日々確かめるために「自己の重要感」を追い求める生き物なのかもしれない。
この「自己の重要感」という考えは本当に色々な言動・行動のベースとなりうる。
例えば、人を非難しない、代わりに褒めるというのも言ってしまえば「自己の重要感」の尊重問題に帰着する。
人を非難せずに褒めるということの重要性は本書内で大きなテーマとして述べられていたが、その論の中で特に印象に残った記述は以下3点。

『われわれは他人からの賞讃を強く望んでいる。そして、それと同じ強さで他人からの非難を恐れる』(p.15 ハンス・セリエの言葉)

『神様でさえ、人を裁くには、その人の死後までお待ちになる』(p.32 ドクター・ジョンソンの言葉)

『(お世辞とは)相手の自己評価にぴったりと合うことをいってやること』(p.47)

また、議論を避ける、誤りを指摘しないという項目中においては以下2つの記述が印象に残ったが、これも結局のところ「自己の重要感」に帰着する問題だろう。

『こちらに五分の理しかない場合には、どんなに重大なことでも、相手にゆずるべきだ。百パーセントこちらが正しいと思われる場合でも、小さいことならゆずったほうがいい。細道で犬に出あったら、権利を主張してかみつかれるよりも、犬に道をゆずったほうが賢明だ。たとえ犬を殺したとて、かまれた傷はなおらない』(p.164 リンカーンの言葉)

『相手がまちがっていると思ったときには…思うばかりでなく、事実、それが明瞭なまちがいだったときにも、こんなぐあいに切り出すのがいいと思うがどうだろう……「実は、そんなふうには考えていなかったのですが…おそらくわたしのまちがいでしょう。わたしはよくまちがいます。まちがっていましたら改めたいと思いますので、ひとつ事実をよく考えてみましょう」。』(p.169)


このように「自己の重要感」を核として本書は書かれているが、若干脱線したところにもビビッとくる記述は散りばめられている。言われてみれば「あ~」となるような基本的なことなのかもしれないが、それが非常に大事なのだ。それが凝縮されている本書の価値はやはり僕が言うまでも無く高い。

最後に、特に印象に残った記述を備忘のためにも引用しておく。

『偉人は、小人物の扱い方によって、その偉大さを示す』(p.27 カーライルの言葉)

『成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である』(p.57 ヘンリー・フォードの言葉)

『われわれは、自分に関心を寄せてくれる人々に関心を寄せる』(p.88 パブリアス・シラスの言葉)

『まるでどんちゃん騒ぎでもしているようなぐあいに仕事を楽しみ、それによって成功した人間を何人か知っているが、そういう人間が真剣に仕事と取っ組みはじめると、もうだめだ。だんだん仕事に興味を失い、ついには失敗してしまう』(p.94)

『物ごとには、本来、善悪はない。ただわれわれの考え方いかんで善と悪とが分かれる』(p.98 シェークスピアの言葉)

『良い習慣は、わずかな犠牲を積みかさねることによってつくられる』(p.114 エマーソンの言葉)

『人にものを教えることはできない。みずから気づく手助けができるだけだ』(p.168 ガリレオの言葉)

『河や海が数知れぬ渓流のそそぐところとなるのは、身を低きに置くからである。そのゆえに、河や海はもろもろの渓流に君臨することができる。同様に、賢者は、人の上に立たんと欲すれば、人の下に身を置き、人の前に立たんと欲すれば、人のうしろに身を置く。かくして、賢者は人の上に立てども、人はその重みを感じることなく、人の前に立てども、人の心は傷つくことがない』(p.228 老子の言葉)

『人間は一般に、同情をほしがる。子供は傷口を見せたがる。ときには同情を求めたいばかりに、自分から傷をつけることさえある。おとなも同様だ…傷口を見せ、災難や病気の話をする。ことに手術を受けたときの話などは、事こまかに話したがる。不幸な自分に対して自己憐憫を感じたい気持は、程度の差こそあれ、だれにでもあるのだ』(p.245 アーサー・ゲイツの言葉)
 

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