Saturday, December 27, 2008

実践的論理本

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論理で人をだます法 <ロバート・J・グーラ>

カバーの手触りと秀逸なイラストに魅されて買ったのだが、この本すごく役立つと思う。
所謂「ロジカル本」、「論理的思考本」というのはちょっと前のコンサルブームに乗って巷に溢れているが、その手の本はそんなにたくさん読む必要はない。それらの本の多くが同じことを説明しようとしていて、違うのは説明の切り口やレベル感だけだ。そしてコンサルタントや本当にロジカルな人が習得しているような本質的な部分を身につけるのはそれほど簡単ではない。(少なくとも巷のロジカル本をさらっと読んだだけでは上っ面しか理解できていない。)
多くの人にとって必要なのは、もっと実践的なスキルというか日常生活に溢れている論理に対する感度の高さやレスポンスの速さなのではないだろうか。本書は邦題こそ「論理で人をだます法」などという詐欺師のような題名になっているが、原題の"NONSENSE ~A Handbook of Logical Fallacies~"が表すとおり、論理に対するセンスを高められる内容だ。

「どうしてこんな街角に立って、派手に手を振り回して叫んでるんですか?」
「ゾウを追い払ってるんだよ」
「でもゾウなんかいないじゃないですか」
「そりゃそうだ。おれがここにいるおかげだよ」

上のやりとりは本書第9章の1ページ目に、千野工一氏の面白いイラストと共に書かれたもの。
本書の第1章から第15章までは、その章のテーマに関する面白いやりとりが最初のページに描かれている。
非常に面白い本なので章構成を下記します。

序章:日常は意味のない会話にあふれている
第1章:感情的表現① 人を丸め込む
第2章:感情的表現② 人を扇動する
第3章:感情的表現③ ほのめかしをうまく使う
第4章:<番外編>論理のごまかしを見分ける
第5章:無関係話を持ち出す
第6章:話をそらす
第7章:あいまいさと不正確な推測
第8章:混乱と不正確な推測
第9章:原因と結果の混同
第10章:単純化しすぎる
第11章:まちがった比較や対比
第12章:はぐらかし
第13章:<番外編>何のための議論か、を考えよう
第14章:誤解を招きやすい表現
第15章:<番外編>三段論法について
第16章:最後に

具体例が非常に多く、自分の日常での体験と良く結びつけることができる。多くの章の内容は理屈では分かってはいる内容だが、どうもとっさに反応できない。上司に一見正しそうなロジックでねじ伏せられてもその場では即座に的確な切り返しができず、後になって、やっぱりさっきのロジックはおかしいだろ!と思うことがよくある方、また、相手の発言の論理の欠陥がすぐに見抜けてしまう一方でそれがどういう勘違いで引き起こされているのか、そしてそれに対してどう思いやりをもって対処していいか分からないという方、本書は網羅性が高く、オススメです。
論理的な間違いを厳密に指摘するだけでなく、その間違いが起きている背景、人間的な思考回路、感情といったものにも触れているのが本書の良さであり、より実践的な本となっている理由だろう。

最後に感想をもう2点。
一つ目は、自分も毎日のように論理の乱用をしているな、ということ。筆者、訳者も述べているが、あまりガチガチでもつまらない会話になってしまうし、その辺は割り切りが必要。ちゃんとした結論を出さなくてはならない会議や商談などではもちろん正しい論理を用いるべき。
二つ目は三段論法の奥の深さについて。三段論法は論証プロセスの核であり、最も基礎的かつ応用性の高いものだが、「AならばB、BならばC、ゆえにAならばC」だけが三段論法ではない。2つの命題と1つの結論からなる三段論法にはかなりのバリエーションがある。本書では「三段論法は全部で250種類以上あるけれど、そのうち妥当なのは24種類だけで、さらにその中でも重要なのは15個だけだ」とし、三段論法の正誤チェックの方法を詳しく述べている。一見単純である三段論法も会話のなかで何気なく変化形を使われるとコロッと騙されてしまうものだ。三段論法はネコでも分かる単純なものだと高をくくっている人こそ、本書を読んで、けっこうキケンなツールだなということを感じて欲しいものだ。

PS
テレビCMや広告って、こういう論理の立場から見ると笑ってしまうぐらいつっこみどころが満載です。
それがまたいいんですけどね。人間の本質を突いていて。
 

Thursday, December 11, 2008

脳内情報、外に出る。

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昼休みに会社でニュースをチェックしていたら、二日酔いの頭痛を吹き飛ばす、とまではいかないものの、かなり興味深い発表があったので、備忘のためエントリー。
上に載せたのは12月11日付のNeuron誌の表紙。
この表紙になった研究成果こそが世界初の超ホットなトピックで、被験者が目で見ている映像をその人の脳活動のパターンからコンピュータ認識するというとんでもない技術。 脳から直接情報を出力するためのBMI(ブレイン-マシン・インターフェース)に利用できる可能性は高そう。 正直、仕組みはかなり浅くしかわからないが、できることをもっとできるようにするのではなく、できないことをできるようにした功績は大きい。しかも未知なる脳の領域で。昔NHKが「驚異の小宇宙・人体」という番組をやっていたが、人体の中でも特に脳の機能は驚異的かつ神秘的。その仕組みも少しずつだが分かってきていて、いつかは壁を破るんだろうなとは思っていたのだが、出力された画像のレベルの高さにびっくりした。現段階では実際に見ている画像の再構成しかできないらしいが、同じ手法を用いて、完全に脳内で作り出されたイメージを画像として取り出せる可能性もあるという。

ちなみに、これを成し遂げたのは日本のチームで、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)脳情報研究所・神経情報学研究室の神谷之康室長らのグループ。(他にも共同研究者あり)
日本も最近やるなぁ。

<御参考>
Neuron:
http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6WSS-4V4113M-P&_user=10&_rdoc=1&_fmt=&_orig=search&_sort=d&view=c&_acct=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=a643f4c74084461af0646cbda3e7d983
ATR プレスリリース:
http://www.atr.jp/html/topics/press_081211_j.html  


上段の画像を見ている被験者の脳を介して下段の様な画像が読み取れる。今は白黒だが、同様な手法を用いて「色」の情報も再構成できるかもしれない。何となく人に伝えづらいイメージを「こんな感じ」とか言いながらスクリーンに写せる日がくるのかもしれない。面白い。


と、ここまでは新しい発見・成果に乾杯という流れだったが、実はかなり怖い。
僕の中では脳は遺伝子とともに「侵してはならない神の領域」2トップだからだ。あんまりわかってしまいすぎるのもどうかと思うわけです。確かにこの脳とコンピュータ間のインターフェースが発展したら体の不自由な人にとってはすごく頼りになるし、現状特に不自由ではない人でも新たな芸術が生まれたり、生産性が上がったりといったメリットは多そう。遺伝子だって同じ。研究を進めて医療にどんどん応用できれば、ピンポイントで誰かの助けにはきっとなる。ただ、人類トータルで考えたときに、これらの研究が進んだ50年後の未来が今より幸福な世界になっているとは限らないし、逆に僕の感覚は「恐ろしそう」だ。ある人間が他の人間をコントロールしうる可能性が高まれば高まるほど世の中って危ないと思うのは僕だけだろうか。 人間はあまり個の力を持つべきではないというのは最近の持論です。他の生物種でも同じで、100万匹の中の1匹1匹それぞれが残り99.9999万匹をどうにかする力を持っている場合、その種とか集団って脆弱すぎる。1匹のとち狂った個体が発生するだけで絶滅しうるからね。我々人類も実は既にけっこう危険な状態にあるな。

外部と繋ぐことで脳をハッキングされたりしたら嫌だな…
もちろん遺伝子に変なミューテーション入れられるのも嫌だし。
 

Sunday, December 07, 2008

HOLES, デザイン魂

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HOLES <LOUIS SACHAR>

ベストセラー小説でAmazonのレビュアーの評価も高かったので買って読んでみた。
まず主人公の少年の名前が"Stanley Yelnats"という回文で何やら面白そうな雰囲気あり。
基本的には大人向けの小説ではないのだが、いろいろなエピソードが最後に収束する系の作品で細かい描写を読めると面白い。ただ、僕はアメリカ人?との感性の違いがあるのか、そこまで(ベストセラーになるまで)の作品か?というのが正直な感想。もしくは、僕の reading のレベルが小説を楽しむまでに達していないか。ニュースが読めても、微妙な表情を楽しむ小説となるとなかなか難しい。最近忙しさにかまけてオフィスの外ではめっきり英語の勉強をしなくなった。1日1hぐらいは捻出したいところ…

トム・ピーターズのマニフェスト(1) デザイン魂 <TOM PETERS>

ぐちゃぐちゃなレイアウトと書き殴りの文章、でもこの本には圧倒的なパワーとスピード感がある。25時帰りで目肩腰が痛い日でも帰りの電車で寝ずに開けるこの本を書いたトム・ピーターズは凄い。このパッションを超えなければだめだ。他の誰が何と言おうとも僕はこの本のような考え方に共感するし、そうじゃないとたぶん仕事も一生つまらない。トム・ピーターズの本は今までそんなに読んでなかったけれど、今の僕には大事な触媒になりそうだ。
新品がもうAmazonでも手に入らないという状況…普段使わないマーケットプレイスで無理矢理買った甲斐がありました。
ちなみに所謂デザインの本ではないです。このデザイン魂の"デザイン"はもっといろんなものを含んでます。
Dreams!Dreams!Dreams!
 

Monday, November 24, 2008

静かな夜に Keith Jarrett

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最近、というほどでもないが少し前に買ったキースの disc
ともに名盤中の名盤で、どれだけの人の心を揺さぶったかわからないであろう2枚。The Melody At Night, With You の方は昔借りたことがあったのだが、手元に置いておきたくなって買ったもの。

The Melody At Night, With You <keith jarrett>

珠玉の1枚。
都会の喧騒から離れて静かな夜を過ごしたいときに最高。
人間の感情が湧き出るどこかの部分にダイレクトに刺さってそれを揺さぶってくる静かで感傷的な Melody.
言葉ではうまく表現できないのだが、この作品を聴くと感受性のようなものが高まった状態で極主観的に自分の人生を振り返りたくなる。というか勝手に振り返ってしまう。キース自身が人生の哀愁を感じながら演奏しているために、それが聴いているこちらにも伝わってくるのかもしれない。音楽の持つ不思議な力というか何か得体の知れない音を介したコミュニケーションの存在を感じる。

こういう感性全開の音楽を聴いて心を洗うことがたまには必要だと思う。明かりを消して、うまい酒を片手に少しまどろみながら、キースの紡ぎ出す音に酔いしれては如何でしょうか?この作品を聴いたことがない人がいるとしたら何が何でも勧めます。ぜひ。

ちなみに中でも僕が大好きなのは、
#4 Someone To Watch Over Me
#5 My Wild Irish Rose
#9 Be My Love

The Köln Concert <keith jarrett>

こちらは全く雰囲気の違う作品。
全曲即興演奏というキース特有のコンサート in ケルン。
即興でこんな音楽が生まれたことに度肝を抜かれることは確かで、この1枚で人生変わったという人も多いが、僕の個人的趣味では上の The Melody At Night, With You の方が完成度は高い。大枠のある音楽と完全即興との違いはやはりある。シンプルであればあるほど一音一音の表現は難しいし、一つの音が含んでいるものも大きい。そういう意味で The Melody At Night, With You はキース最高の1枚だと思うのだ。

もちろんこのケルンコンサートもすごい作品であることに変わりは無い。即興演奏というのは僕も家でよくやるのだが、けっこう冗長になりがちだし、弾いている本人が気持ちいいだけで、客観的に全体を見ると構成云々とはかけ離れたものになっているはずだ。しかし、このケルンコンサートはけっこうな長さの演奏なのにも関わらず、構成が素晴らしい。メロディーも斬新でいて心地いいものが次から次へと出てくる。キースにとってピアノの音というのはきっと麻薬的なものなんだなと思う。そうじゃなきゃこんな即興、ステージでできない。鬼才です、ほんと。


To:僕の周囲の人
①の The Melody At Night, With You 買って聴いて良かったら教えてください。
Jazz聴きながら酒でも飲みましょう。
 

Friday, November 21, 2008

市場周辺トピック

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いくつかのトピックを備忘録/雑記的に。

▼そろそろ潮時? Citi

 The Economist のオモシロまんが

Citiグループの株価が4ドル台に突入し、上のまんがのGM程ではないが、いよいよ臭ってきた。
さすがにCitiが Chapter11 なんていうことになると米国内でも大パニックなのであらゆる手立てで救済されるとは思うのだが、こうなったらCitiに口座を持っている意味も薄れてきた。土曜やっていたり、一定額以上預けていればタダでATMから引き出しし放題だったり、邦銀とは違った独特の利便性があったが、一番の特徴はグローバル性とそれにちなんだ外貨関連の便利さだったように思う。ところが、外貨預金などは預金保証制度の適応外なので、これだけ credit risk の高まった状態では嫌な感じ。円預金も保証されているとはいえ、もしもパニックになったらいろいろ面倒そうなので、そろそろ引き上げ時かなとも思う。Citiの経営状況は米国だけでなく世界にとって一つの大きなカギだ。

▼大学もやられている

駒沢大がデリバティブ取引で154億円の損失を出したというニュースに次いで今度は立正大の含み損148億円のニュース。損失は計上されていないものの、資産運用のための金融取引でやられている点に変わりは無い。
いまや金融機関以外でもデリバティブ取引は当たり前のように行われていて今後も思わぬ会社が思わぬ損失を計上する可能性はあるだろう。大学のような教育機関で立て続けにこういうニュースが出るというのは事態の深刻さを物語っていると思う。同時に大学経営の厳しさも感じ取れる。

▼じわりじわりと新世界を目指すマーケット

今週もよく相場が動いた。リスク回避傾向に。
株も為替も10月24日の底に近づきつつあるが、年内どこかで突き抜けるのだろうたぶん。GBPやNZDに関しては最安値圏。今日もまた思ってしまった…ニュージーランド旅行に行きたいと。ニュージーランドの牧場とかでノホホンとしたい。

あの10月24日の対円最安値はこんな感じ(by Reuters)
ハードカレンシー以外は適当にチョイスしてあります。
別にこのポジションを持っているわけではありません。念の為。
これを基準にマーケットを見ると面白いです。

それにしても円高。年明けから燃油TAXも下がり、ますます海外旅行のチャンス。通貨危機に近い状況のお隣韓国へは燃油TAXもあまりかからないので格安お手軽ツアーが可能。週末にサクッとキムチでも食べに行くかというのも全然可能です。ちなみに僕の友人の何人かは旅行目的及びブランド品購入目的でさっそく韓国に行くそうだ。

▼原油続落

WTI先物もとうとう50ドルを割ったし、身の回りを見ても、徐々にマーケットの下落が価格に転嫁されてきている。最終消費者としてはめでたいか。
とにかくこれからどうなるのかさっぱりわからない。ただ、再び1バレル20ドル時代が来るかといったらさすがにそれは…と思ってしまう今日この頃。

▼芸大卒、異色の元チェリストトレーダー

田中雅(TADASHI TANAKA)という人をご存知?

ざっくりとした人物背景

(一部引用)
『ところが高校2年のとき、突然、将来への疑問と不安が頭をもたげてきた。
「エリートコースに乗った人間の人生が見えてしまった。自意識が強かったのでしょう、サラリーマンで一生が終わる人生を受入れられなくなったんです」
他人と違ったことをしたい、自分なりの人生を送りたいと、人は誰しも考える。
問題はそれを実行に移せるか、人と違った道を歩くことへの不安に耐えながら、自らの思いを全うする意思が強固であるかどうかであろう。』

経歴が面白すぎる。自由人になるにはものすごい決断力がやはり必要か。

五嶋みどりの弟の五嶋龍もあれだけのヴァイオリンの才能をもちつつ、ハーバードで物理学を専攻しているのだからもはや僕とはスペックが違う。
"理系"と"classical music"、何か通ずるところはあるのかもしれない。