Monday, September 28, 2009

クラウドソーシング

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クラウドソーシング <ジェフ・ハウ>

新書としては『ウェブ進化論』以来のexciting作。
起きている変化を希望に満ちた変化として描いているところが共通している。人によっては、突っ走りすぎというような感想を持つかもしれないが、僕としてはこれぐらいが丁度いいし、心地いい。

「クラウド」がつく単語が最近巷を賑わせているが、クラウドソーシング(Crowdsourcing)もその一つ。本書はクラウドソーシングという単語の生みの親であるジャーナリストのジェフ・ハウ氏自らの本だからこそか、非常にわかりやすいし、面白い。
Tシャツ販売の"Threadless"、写真素材提供の"iStockphoto"、R&D委託の"InnoCentive"などの代表的クラウドソーシング企業を例に挙げながら、その仕組みとそれが成立する理由、さらにはこれから世の中がどうなっていくかについて熱く展開される。そもそもクラウドソーシングとは、クラウド(群集)にソーシング(委託)するということで、今までのように特定の業者と契約を結んでアウトソーシングするというのではなく、不特定多数の人の力を借りて目的を達成するというもの。

これが上手く機能するのは、まずソーシングを行う企業側にとってメリットがあるから。即ち、高い人件費を払って自社に専門家チームを作るよりも、外部の専門家に頼むよりも、多様性に富んだ群集に解を求める方がコスト的にも、そのクオリティーにおいても有利であるということだ。環境さえ整えば、群集は企業の専門家チームよりも良いものを生み出すことができるのだ。
著者は、「(クラウドには)行き場のない才能や創造性がもてあまされている」(p12)と述べ、ビル・ジョイも「頭のいい人々のほとんどは他人のために働く」(p19)と述べている。
本書で著者は具体例をふんだんに使って、実際にクラウドがどれだけ優秀か証明する。
他方、ソーシングされる側、すなわち我々群集にもメリットがなければクラウドソーシングは成り立たない。しかし、これが上手くはまっているからこそ例えば上述の3社のような企業が存在する。クラウドソーシングは群集に新しい働き方を提供しているのだ。先に"行き場のない才能や創造性"というフレーズを引用したが、まさしくそれがポイント。僕たちは本当に100%自分の能力を活かせて、自分がやりたい仕事をしているのだろうか?そういう人はたぶん稀だ。それぞれいろいろな事情もあり、そう簡単にそんな最高な仕事にはありつけない。だからこそ、その言わば"もったいない"リソースを提供する側と享受する側とにWin-Winな関係が生まれる。

Webという大きな波に後押しされ、クラウドソーシングは社会を確実に変えようとしている。そして新しい働き方の台頭により、働くことの意義、報酬とは何か、そういう所まで個々人が考え直すことができるようになった。クラウドソーシングという単語を著者が生み出したのは2006年。時代はじわりじわりと変わりつつある。本書は新しい時代の生き方をポジティブに考えるきっかけを与えてくれる非常に良い本だと思う。オススメです。

一つだけ心配なのは、やはり芸術家、クリエイター、研究者といった人の中で食えなくなる人が増えること。これは確実だろう。どの分野でもとんでもない才能を持った人が一定数いる。そういう人にとっては群集が相手だろうと全く関係ない。常に想像もできないようなパフォーマンスを生む。ただ、そうではなくてそこそこの才能とすごい努力でもってある一つの分野に励んでいる人が多くいて、実はそういう人たちが文化や基礎研究を支えていたりする。彼らの生活は今だってそんなに余裕のあるものではない。そしてクラウドソーシングが高度に機能する世の中になると、彼らの生活は破綻する。今までフルコミットし続けてきたフィールドから離れざるをえない状況になることも考えられる。そこにポッカリと空いた穴を群集の力が埋めることができるかどうか、僕は正直不安だ。まあその頃になると前提となる構造すら変わってしまっているのかもしれないが。


以下に本書で印象に残った部分をいくつかメモ。

・スレッドレスはTシャツを販売しているのではない。コミュニティを販売しているのだ。(p13)

・クラウドソーシングには一種の完全な実力社会を形成する力がある。~~仕事そのものの質だけが問われるのだ。(p23)

・クラウドソーシングは、われわれの誰もがクリエイターだという仮定にもとづいている。(p23)

・報酬はドルやユーロに換算できるとはかぎらない。(p25)

・ウィキペディアやフェイスブック、ユーチューブなどの例では、企業の仕事をコミュニティが行っている。(p155)

・イノベーションはメーカーではなくユーザーによってもたらされる。~~ユーザーのほうが製品パフォーマンスの向上を必要とし、それを実現させる能力をもちあわせている。(p159)

・情報経済での原材料は鉄や鋼などではなく、ベンクラーの言によれば、「人間の創造的な労働」である。(p162)

・(InnoCentiveを活用するP&G)「毎年、研究予算は営業予算よりも急激な勢いで増えていく。現行の研究・開発モデルは破綻している。(p209)

・じつは、課題を解決できる確率は、専門とは異なる分野の課題にとりくんだ科学者のほうが高かった。(p212)

・(ビル・ジョイ)社内にどれだけたくさん賢い人間がいても、いちばん賢い人間はどこか別のところで働いている。(p219)

・(参加型メディアに関する法則)1対10対89の法則といって、あるサイトを訪れる100人のうち1人はじっさいに何かを作りだし、10人はその人の作品に投票し、あとの89人はその作品を消費するだけであるというもの。(p318)

・クラウドソーシングを成功させるには、マズローの五段階欲求説でいう最上位、自己実現欲求を満足させることである。人びとが参加の方向へ引きつけられるのは、なんらかの心理的、社会的、あるいは感情的な必要を満たされるからだ。(p403)
 

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