Saturday, January 03, 2009

大人の時間はなぜ短い

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大人の時間はなぜ短いのか <一川誠>

年をとると時の経つのが早く感じられるという現象はなぜ起こるのか、題名の問いに対するジャストな解は残念ながら予想通り用意されていないのだが、考える切り口自体は面白かったので、新書としてはいい内容だったと思う。文系出身の筆者だけれども、主観に走ったり、少ないデータから無理矢理結論を導いたりということはしない冷静な論調であった点もよかった。

題名からも察する通り、本書ではまず私たち人間が感じている時間と物理学的時間、そして時計によって刻まれる時間がそれぞれどのようなものなのか、どう違うのか、何がホンモノの時間なのかを考えるところから始まる。ここでは、そもそも時間に限らず、人間の知覚というものは実在のモノ・コトを正確にとらえる類の能力ではないことを視覚を中心とした多くの具体例によって説明する。ここは僕自身は疑問の余地もあまりなく、すっと本書の肝心な主張を受け入れる体勢になれた。(話はずれるが、p49の「オオウチ錯視」にはビックリ)

次に、我々にとっておそらく一番大事であろう、人間が知覚する時間の性質についての説明へと続く。ここでは明確な因果関係等は分かっていないものの、それなりに頷けなくもないような仮説がいくつか提示される。中でも印象に残ったのは、個人の精神テンポは人によって異なり、それは歩くペースや会話の際の間合いの長さと相関があるという話。歩くペースが居住する都市の人口規模と正比例の関係にあるという報告から、精神テンポはある程度環境の影響を受けて獲得されるというのが興味深いというか納得という感じだった。これに関しては、さらに自分のテンポと違うテンポに晒されるとそれはストレスの原因になるという仮説もあがっていた。このようないくつかの仮説から、議論はさらに現代社会の問題点と時間との付き合い方へと発展する。

本書の立場として一番面白かったのは、時計のみならず、「時計が刻む時間」も人間が作り出した道具としている点だ。それがどうも最近人間は自らが作った道具に弄ばれてしまっている。筆者は現代の世界における、時間の厳密化、高速化、均質化に警鐘を鳴らし、もう一度自分達が作った(時計の)時間との付き合い方について考える機会を提供してくれている。例えば高速化の問題としては、人間が「走って」移動できるスピードはたかがしれていて、人間の時間知覚能力も本来それ相応のものであるにもかかわらず、現代では信じられないスピードの乗り物を操っているという指摘がある。これでは事故も起きるというわけだ。

読む前からは予想外の展開に向かっていった内容だったが、軽い読書には丁度良い。

ちなみに、本書内で紹介されていた「時計が刻む時間」は以下の(時間の)館で確認できるようです。
http://www3.nict.go.jp/cgi-bin/JST.pl
 

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