Thursday, January 08, 2009

人間の土地

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人間の土地 <サン・テグジュペリ>

“ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。
理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。”


このフレーズから始まる本物語は、サン・テグジュペリの人生の断片をひとつの糸で繋いだものだ。
人間を人間たらしめているものは何か、あまりにも圧倒的な大地の上で Heroism が静かに主張される。
僕に fit する感覚ではないが、今の僕に足りないのはこういう精神かもしれない。
自分の夢を貪欲なまでに追いかけ、自分の求める価値を創造するために新たな道を絶えず切り開く者、その一方で、自分の目の前にあるモノ・コト、与えられた環境、そういった閉じた系で価値を最大限見出して生きる者、おそらく本質的には1人の人間の中に共存しないであろう2つの生き方のどちらにも、この物語の静かな主張は刺さりうる。

正直、8つのストーリーからなるこの本を読み始めたとき、何も僕の心に届くところはなかった。フランス文学らしい少しまわりくどい描写と、堀口大學さんの小難しい感じの翻訳に埋もれてか、何の本なのか分からないような感覚を覚えた。しかし、読み進めていくと、不思議と一貫した主張が伝わってきたし、堀口さんの訳の味も感じることができ、逆に名訳なのだろうという結論にも至った。そうした読書だったせいか、もともとこの書はそれだけの価値があるのか、もう何度も読み返してみたい気が湧いてきている。間をあけて、また人生の変曲点において本書を再び繰ることが必要だし、より一層深い洞察を著者から授かることができるのではないかとも思う。

僕の大好きな『星の王子様』と並んでサン・テグジュペリの名作と言われるだけのことはある。多勢にならうわけではないが、やはり名著、名作と言われた本には多くの人の心を揺さぶるだけの価値がある。どうやら宮崎駿も本書に強く影響された一人のようだ。確かに彼の原点も本書のマインドと非常に近いところにあるように感じる。ちなみに本書の表紙の絵は彼が描いたものだ。
 

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