Friday, January 25, 2008

人工生命? ~Synthetic biology~

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合成生物学のフィールドでなかなか hot なニュース。
アメリカのクレイグ・ベンター博士が率いる民間研究チームが、ゲノムサイズは小さいながらも細菌の一種である“Mycoplasma genitalium”のゲノム(582,970 bp)を含んだ DNA を完全に化学合成することに成功したようだ。
24日、Science電子版にて publish された。

<Science 電子版内の News>
“Scientists Synthesize a Genome From Scratch”
http://sciencenow.sciencemag.org/cgi/content/full/2008/124/3

<Abstract>
“Complete Chemical Synthesis, Assembly, and Cloning of a Mycoplasma genitalium Genome”
http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/1151721


ゲノムの全合成はウイルスでは既に実現しているものの、ウイルスは定義上「生物」ではないため、今回バクテリアのゲノム合成が達成されたことは、生物を創る一歩という意味では大きな前進ともとれる。
定義上のウイルスと生物の境についてはさておき、ウイルスと今回のバクテリアとではゲノムサイズのオーダーが違う。細菌はウイルスに比べて断然「複雑」だということだ。今回の大規模な全合成の過程を覗いてみるとそれはそれは大変なもので、まだまだ簡単にできるというイメージはないが、「できた」という結果自体が驚きだ。今後もこのチームからは目が離せない。

このニュースを見てびっくりしたのは非常に偶然だったからというのもある。
今回の成果がまだ公になっていない日本時間の24日の午後にたまたま「人工生命」の定義についての話をしていたからだ。

この研究に関するニュースでは「人工生命」の可能性についても触れられている。
ところで、「人工生命」と言うとコンピュータ内シュミレーションの際に出てくる AL をイメージする人も多いだろうが、その名前のとおり、細かい部品などからコンピュータ自体を作るのと同じようにして生命体を創るというイメージも持たれている。実際に合成生物学(Synthetic biology)の現場ではこのようなイメージに近い感じでも人工生命創出に向かった研究がなされているし、生命のシステムの一部となりうるパーツも次々につくられている。こんなことが「生物」でもできてしまえば、本当にもう神だ。

しかし、今世間一般で使われている「人工生命」という単語のなかで「人工」というのはもっと大きい意味で使われている。人が手を加えるか加えないかという一次元的な基準で「天然」の逆にあたるのが「人工」なのだ。だから今回のようなニュースで「人工生命がもうじきできてしまうのではないか?」と報じられても、上述のような本当に「人間によって完全に創られた生命」という少し恐ろしいものがすぐにできるわけではない。今回の研究成果がもたらすのは、当面の見通しとしては「人間が手を加えた生命」のデザイン性が格段に上がるという可能性ぐらいだ、と解釈するのが冷静かと思う。
考え方によっては「人間が手を加えた生命(この世にはあまた存在する)」のデザイン性が格段に上がるというのは「生命を一から創る」というのと同じぐらいのインパクトがあるかもしれないが、僕はこの違いはかなりあると思っていて、後者ができるようになってしまった瞬間に人類は何か新しい時代に突入するのではと考えている。
もっと極端に言うならば、「進化を急速にしたり、今あるものを改造する」レベルと「ゼロから生命を創る」レベルの差だろう。

学問や科学者の追う興味という観点から見ればそんなところなのだろうが、生命科学・工学によって僕たち人類がおかしな発展を遂げていることは間違いないとも思う。学問的には「ゼロから創る神」にはまだまだなれないのかもしれないが、「生命倫理」としてくくられる問題群は急速に拡大している。「バイオ・ハザード」をはじめとする多くのSF映画のような人類滅亡の絵はいつ現実となってもそれほど不思議ではない。

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