Friday, December 14, 2007

ウェブ時代をゆく

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ウェブ時代をゆく -いかに働き、いかに学ぶか <梅田 望夫>

ウェブ進化論に強い影響を受けた僕は、この「ウェブ時代をゆく」を発刊日に買った。発刊日に買えたのも著者の梅田望夫さんのブログ My Life Between Silicon Valley and Japan を見ていたからだろうか。
この1ヶ月ほど、いろいろあったので読書のペースも上がらず、つい先日読了した。買ってから読み始めるまでに非常に時間がかかったのが情けないところだ。
ところで、やはり本書はおもしろく、ウェブ進化論に続いて梅田さんのオプティミズムも健在で、読んでいてワクワクした。僕が思う各章のキーワードを挙げてから、その中のいくつかの項目についての所感を書くことによってレビューにしたいと思う。

<key word>
序章:「一身にして二生を経る」、「群集の叡智」、「学習の高速道路と大渋滞」
第1章:「知と情報のゲーム」、「もうひとつの地球」
第2章:「新しいリーダーシップ」
第3章:「けものみち」
第4章:「ロールモデル思考法」
第5章:「知的生産と知的消費」、「閉から開へ」、「脳をネットに預ける」
第6章:「古い価値観に過剰適応してはいけない」
第7章:「オープンソースのような仕事の仕方」
終章:「自助の精神」

著者の姿勢
あとがきの中で、梅田さんは
『本書は、まじめで一生懸命な若者たちの、そして昔そういう若者だった大人たちの心の中に、未知の世界を楽しむエネルギーが生まれてほしいと思いながら書いた。』(p.243)
と、どういう姿勢で本書の執筆にあたったかを述べているが、ウェブ進化論とこの本を通して僕にも梅田さんの感じるエネルギーが生まれたと思う。ウェブが持つ性格(p.14,15)もさることながら、梅田さんのオプティミズムを支えるのは、やはり個人の「志」なのだと強く感じた。この本を読んでいてなぜか元気が出るのは、繰り返し、繰り返し、以下の公式が発信され続けているからなのだろう。
すなわち、
「ウェブ」×「志」=「個をエンパワーする人生のインフラ」
という公式のことだ。

表面的に見れば、ウェブ進化論は新しい時代を作るウェブの力を分かりやすく世に知らしめる本であって、ウェブが主役だった。しかし、本書では主役は完全に僕たち人間に移る。ウェブ進化は「機会」であって、それをいいものにするのも悪いものにするのも志次第なのだ。梅田さんが本書を通じて伝えたかったのは、ウェブ進化をいい機会とするためのマインドセットなのだと僕は強く確信している。

大渋滞を抜けるには
羽生さんが高速道路論を簡単に言語化できたのには納得できるところがある。僕自身将棋を長くやっていたため分かりやすいのだが、将棋界ほど学習の高速道路化によって大渋滞が起きることが明白なフィールドはない。プロになれる、そしてその後も上に上がれる人数がはっきりと決まっているため、レベルの底上げが起きても同じようなある一定の高いレベルの中から「自分だけ」が上に上がる力が無ければ生きていけない。その状態がまさしく大渋滞なのだ。羽生さんの説によってまっさきに頭に浮かんだのが奨励会の三段リーグという、生きるか死ぬかの辛い戦いの絵だった。梅田さんは大渋滞を抜けるためには「高く険しい道」を行くか、道なき「けものみち」をいくかのどちらかだと述べているが、高く険しい道は今よりもさらに険しくなることは間違いないと思う。高く険しい道というのは出口の人数が限られているし、柔軟さに欠けるからだ。だから梅田さんはけものみちを突き進むための力が大切だと説くのだろう。けものみちは何でもありの柔軟な道で、人数だって限られない。この道を進むことができるか否かがその人の自由な人生の可能性を決める。

コミュニティの信頼を
新しい時代では新しいリーダーシップの形が歓迎されていくということがオープンソースなどの具体例を挙げつつ述べられていた。さらにはクレイグスリストの例を通して、事業のあり方も変わってくるという可能性も示唆されていた。この例では『事業上の利益を追求しすぎると、コミュニティの信頼を失う』というクレイグの考えが紹介されていた。これを読んで思うのは、日本の SNS のリーディングカンパニーである mixi のことだ。mixi は日本人の気質と海外の SNS の成功例を上手く融合させながら多くの会員を獲得することに成功したが、最近はすっかり一人勝ちの図が鼻につくようになってしまった。同業他社に対しての一人勝ちではなく、会社とユーザーすべての中での一人勝ちということだ。mixi の広告収入は誰が考えても莫大で、それがユーザーに対して一切還元されていないのが非常に危ういと僕は思うのだ。mixi を開けば広告だらけなことに気づく。そして、レビューもアマゾンにダイレクトにつながっているのに、その収益はレビューアーではなく mixi 独り占め状態だ。mixi の提供するものは SNS という今ではありふれたサービス自体と「あちら側」のスペースだけであって、非常に企業対ユーザーの関係が不公平な状態にあると思う。今のままの体質では新しいウェブ時代をゆく個人のマインドセットには合わないだろう。

ロールモデル思考法
梅田さんのエピソード付きの、第4章は気づかせられることが非常に多かった。特に p.142~のロールモデル思考法のコツはためになった。一文だけ引用すれば、
『「時間の使い方の優先順位」を変えるにはまず「やめることを先に決める」ことである。』
ということだ。この短い文にシビれてしまって、なかなか次のページへ進めなかった。

知的消費と知的生産
これは例えば、本を読むことと、こうしてレビューを書くことだ。本を読むこと、情報を得ることだけでは知的消費にすぎないということが述べられている。ブログなどのお手軽な知的生産のツールが存在する現代ではやはり output を重視していかなければならないことを再確認。

閉から開へのマインドセットの転換
オープンソースというのは今でも不思議でならない。なぜちゃんと work するのか…。
みんなが「開」のマインドセットを持ったとき、オープンソースの例ではないが、この世界の知的生産はより良くなるだろうとは僕自身、本書を読む前から感じていた。ビジネスをやっている企業の研究機関ならともかく、アカデミックな世界でも論文発表には歓喜と落胆のドラマが付随する。アカデミアたちの世界は小さな研究室単位の前進が断続的に繰り返されていて、出し抜き合戦だ。その結果、研究の発展は決してスピーディーではないし、捏造の例も後を絶たない。オープンで連続的に研究が進めばどれだけ理想的かといえばそれは今の比較にはならない。今の社会事情ではなかなか難しいのかもしれないが、オープンソースのような仕組みがいろいろな知的生産の現場に広がれば、世界はもっと面白くなるだろう。

開かれた自由
最後に、本書の中の梅田さんの考えを引用してこのレビューを締めくくりたいと思う。
すっかり梅田さんの虜になってしまった僕だが、この考えを噛みしめて次代をゆこうと思う。

『ウェブ進化によりどういう自由が現代人には開かれたのか、と考えるとき、私は、リアル社会の環境の制約、つまり住む場所や生まれながらに属するコミュニティなどが相対化されて、自らの志向性にあわせた共同体へ移行する自由が与えられたことなのではないかと思う。』(p.82)
 

是非みなさん、明日にでも「ウェブ時代をゆく」を読んでみてください。
 

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